飴乃寂


□屋上
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こちらは「カラスの五重唱」×「飴乃寂」の主人公コラボです。

各々の連載が進むにつれて、どこかズレが生じるかもしれませんが、ご愛嬌ということで。

オチなしヤマなしの、ただ屋上でサボっているだけの話。

構わないよ!って方のみお進みください。















「お」


「あ」



弁当を食べ終えてから気まぐれに屋上に行くと、そこにはもう先客がいた。


向こうもお昼なのか、購買のパンを片手に、手すりに寄りかかっている。



「やぁ副会長」


「品臣か…」



声をかけると、その男子生徒は焼きそばパンを食べながら振り返る。


だが目があうと、すぐにまた正面を見た。なんか今、眠そうな顔してた。


隣に立って顔を覗き込んでみる。



「ぼっちなんて珍しいじゃまいか」


「自分こそ一人やん。獄寺とかヒバリとか、男おっかけ回さんでエェんか?」


「ちょっと人を男好きみたいな、誤解されるようなこと言わないでよ。これでもボク一途で通ってんだから!」


「ハッ」


「うわっ。ツラだけなら隼人君並にいいだけに、腹立たしいなオイ」



むしゃむしゃとパンにかじりつきながら、やっぱり眠そうな顔をしている相手は、よく見なくても美形だ。眼福だ。顔だけは。顔だけは、な!


自分も手摺に寄りかかって腕を組み、その上に顎を置くと、視界の下にグラウンドが見えた。


この副会長はヒバリさんやら隼人君やらを通して顔見知りくらいにはなっていたが、こうまともに話すのは初めてだったり。


いつも生徒会室で仲間とご飯を食べてるらしいのに、こんな所で一人とは。


眠いから元気ない…ってワケじゃない、のかな。



「………」


「………」


「………」


「………」



さすが屋上。風が気持ちいい。



「………」


「………」


「……あ、隼人君」


「……あ、クイーン」


「え?会長さんどこ?」


「あそこにおる」



ジャージ姿でグラウンドに出てきた隼人君はともかく、金髪美人の我が校の女帝は見当たらない。


副会長を見上げると、食べ終えたパンのから袋を握ったまま、手摺に頬杖をついていた。



「左の花壇にしゃがんどる」


「あ、ホントだ」



つかここからじゃ、見えるか見えないかギリギリの所だぞ。あそこは。


たまに見かけるけど、あの会長はいつも授業中に何をしてるんだろう。応接室に入り浸ってる自分が言えたギリじゃないが。



「……よく見つけたね」


「そうか?あの金髪はよぉ目につくやろ?」



獄寺の頭もこっからすぐ分かるやん、とグラウンドに散らばるジャージ集団を見る副会長。


おい、ちょっと待て。



「美形同士だからって許されると思うなよ!?」


「なっ、なんの話や!?」


「あの銀髪だけは絶対譲らんからな!たとえ将来赤面が似合う受け臭パない堅物ダンディになってても、あげないからな!?」


「だから何の話や!!?自分の言うとることほとんど分からんで!?俺は獄寺なんかいらん!!」



まぁ、そこでほしいだの下さいだの言われても、叩き潰すけどな!物理的に!



「……ま、確かに日本人の中じゃ、隼人君は普通に目立つけどね」



グラウンドに視線を戻すと、隼人君は何やらツナに一方的に喋ってるのが見えた。


副会長はそやなと軽く相槌をうって、同じ方向を見る。



「………そういや自分、次の時間体育とちゃうんか?」


「女子は教室で保体です」


「サボりか。風紀委員のくせに」


「そういう副会長も、着替えてグラウンドに行かなくていいんスか?」



確かA組は、副会長のクラスと合同体育だったはずだ。



「気が乗らん。ここであの人見とった方がエェ」


「そうっスね。ボクも隼人君見てた方が面白いです」



そこでまた、会話が途切れた。


遠くからホイッスルの鳴る音がして、各々のゼッケンをつけたクラスメイト達がサッカーを始める。


山本が独走して、その後を銀髪が追っている。



「…………………なぁ、」


「はい?」



長い沈黙の後、言いずらそうな声に目だけを動かす。


今までは何となくお互い正面を見たままで話していたけど、横を見ると、頬杖をついたまま難しい顔をしている副会長と目が合った。


眉を寄せて唇も一文字だし、恥ずかしいのか怒りたいのか、やっぱり言いたくないのか。そんな顔。



「自分は……名前呼ぶのに、抵抗とか…ないんか?」


「名前?」


「………ごっ、獄寺、の…」



目線を逸らして頬を赤らめるって、ちょっと誰得だよ副会長!



「やっぱ狙ってんのかここでケリ着けようじゃねーかこのエセ関西人!!」


「ちゃう!!恋人の名前って意味や!!胸ぐら掴むな!!」


「あ゙?お前の恋人が隼人?」


「落ち着きィこのアホ!!あない野郎に付き合う物好きは自分くらいや!!」


「自分ってお前のことだろぉーーっ!?」


「あああもう面倒やな!!なんや俺がバカみたいやないか!!」


「ああお前はバカだ!会長バカのヘタレだバァカ!」



いくらヒバリさんのお願いだろうと、隼人君のそのポジションだけは手離さないからな!!



「誰がヘタレや!!ただちょっと名前呼びにくぅて悩んでただけや!!」



(ヘタレだ!!)



ここまでヘタレだったのかこの美少年!!一年以上片想い中なのはお姉様達の噂で知ってたけど!


イケメンはイケメンでも、残念なイケメンかこの人!!



「……おい、何で急にだんまりになんねん。聞いとんのかこら」


「………うん、なんかごめん…」



外見はナイフみたいに尖ってるクールな君も、今なら犬猫のように頭をわしゃわしゃしてあげられるよ。



「謝るな。理由は分からんけどめっちゃ腹立つわ」



お互い掴んでいた胸ぐらを離し、また手摺に寄りかかって並ぶ。


怒声なのか歓声なのか分からない野太い声が、グラウンドから絶え間なく聞こえてくる。



「………で……どうなん…?」


「う〜ん……呼び名なんて気にしたことなかったから…なんとも…」



もともと、冗談半分で名前を呼んでいたし。


あとは肺ガン予備軍とかゴクとか……やっくん、とか。最後のは皆に内緒だけど。



「渾名バカに聞いた俺が間違えとった……」


「バカは余計や」



あ、口調うつった。



「でもそうだな〜、向こうが名前呼ぶ時に照れて目逸らしがちになったり、どもって赤面したり、でも頑張って呼んでくれるとこ見るのは楽しくて好きだなぁ」


「……自分サドか?」


「ちょっと急かすと逆ギレして逃げる時もあるけど、可愛いからついいつもいじめたくなっちゃうだけだよ?」


(……あかんどっかの誰かみたいや…!!)



急に頭を抱えてうずくまった副会長。


どうした。



(つか、獄寺と同じ行動とってる俺って……)


「ふっくかいちょーっ?」


「いや、呼んでるだけ向こうが上か……」


「おい、一人で納得すんな。ボクも混ぜろ」



悩み聞いてやってんだろ。



「嫌や!また首席ぶん取れんかった上に、あいつ以下なんて死んでも嫌や!!」


「あ、前回のテスト学年一位はボクね」


「はぁっ!!?」


「いやー前回は山が当たるわ当たる。隼人君はその日腹痛で欠席だったし、まぐれだ」



満点しか取らない秀才君みたいに、全教科満点ってのは無理だったけど。



「自分に負けるんは、獄寺よりもなんや、人として許せん……!!」


「君、何かボクに恨みでもあるの?」



まともに話すのは、今日が初めてだよね?



「自分も今日から俺の敵や!俺はもうヘタレなんて言わせへ―――」



ぎゃーぎゃーと騒いでいる声を尻目に、また手摺に腕を組んで、その上に顎をのせる。


おーガンバレーと心の籠ってない声援だけ贈りながらグラウンドを見ると、隼人君がスライディングを決めて山本からボールを奪ったところだった。



「おー」



やっぱりああいうところ見ると、カッコいいなぁって……思った、り。


そのままゴールまで行けると思いきや、サッカー部らしい生徒達に挟み撃ちにされた隙に、ボールをとられてしまった。


そのままパスされたボールを蹴ってゴールを決めたのは、山本だ。


隼人君めっちゃ悔しがってる。地団駄踏んでるから遠目でもすぐ分かる。



「……」


「…………へぇ?」


「っ!?」



唐突に耳元で聞こえた無駄に低い声に、手摺に寄りかかったままのけ反った。


目の前はグラウンドから、副会長のアップに変わってる。悶々としていた表情から、今は何か面白いものを見つけたかのようにニヤニヤする顔に変わっていた。



「なっ、なんだい?」


「自分もそない顔するんやな。今めっちゃ乙女やったで?」


「へっっ!?…つか覗くな!!」


「おーおー真っ赤ッか」


「〜〜〜〜っ!!」



なんか今、ものっそい恥ずかしいとこ見られた気が…!!



「あっ、会長が転んだ!!」


「!!?」



ワォ、振り返りが電光石火。


でもごめん。嘘です。


だからそんな手摺から落ちそうなくらい身を乗り出さないで!


騙したな!?て怒ってもいいけど、ほどほどでお願いします。



「………」


「……あ、あれ?副会長…?」



反応なし?めちゃくちゃ怒ってる!?もしかして会長が本当に転んでた?


おそるおそる花壇がある方を手摺から覗き込むと、そこには確かに会長がいた。


けど何故か、こっちを見上げてる。会長が見上げたまま笑ってる。やっぱり凄い美女よあの会長。


そこでチラリと、横目で副会長を見た。



「………っ」


(ワォ…)



隼人君も真っ青なタコ赤っぷりだよ副会長。


会長を見下ろせば、花壇の手入れに使っていたと思われるバケツらしきものを持って、校内に戻るところだった。



「っ…あ……ああぁあぁあぁあ〜〜〜っ……!!」


「どした!?」



うずくまって何事だよ!?



「……………もうアカン……死ぬ……」


「いくらなんでもぶっ飛びすぎだろ!落ち着けって」



しゃがみ込んで丸まってる副会長のか細い声に、自分もしゃがんで肩に手を置く。


そんな破壊力のある悩殺スマイルだとは知らなかった。



(本当に会長が好きなんだなぁ、この人……)



ピュアだ。ヘタレすぎだけどピュアだ。重要だから二回言った。


どこか遠目で青空を見上げると、何やらブツブツと小さな呟きが聞こえてくる。


ん?と耳を寄せる。



「…アカンアカンアカンアカン……名前呼ぶとか絶対無理や。たとえ殺されようが絶対無理や。目の前にあの顔ある思っただけでもう心臓苦しゅうて敵わん……アカンもうアカン…アカンアカンわアカン…」


「………」



そんな呟きが、早口でエンドレス。


あれ、今なんか、


頭の中で、なんか、


なんかって言うかもう、なんか、



スパンッ



「いっだあああっ!!?」


「あああもう男ならシャキッとしやがれこのヘタレ!!!」


「今全力でぶったな自分!?」


「イラッときたんだよ!!もうイラッとすんだようじうじしやがって!!」



コクるんならさっさとコクれよ!!


ぶつかってから悩めよじれったい!!



「いいか!?ボクが受け入れられるうじうじヘタレ野郎は、隼人君だけなんだよ!!それ以外の野郎がぐずってんのを見るとイライラすんだよ!!」


「じゃかぁしいっ!!俺は自分と違うて人前で接吻できるような、図太い神経は持ち合わせとらんねん!!」



日本人ならそれらしく慎ましめ!!と、立ち上がった副会長が斜め上から言い返す。



「見下すな、しゃがめ」



バキッ



「ぶふっ」



顎に一発。


痛みから再びしゃがみ込む副会長。



「好きなんだから、好きって言えばいいだけの話じゃない。どうして皆そんな悩むんだい?」


「…〜っつ、……自分、思っとったより男前やな…っ」


「そう?」



隼人君にもたまに言われるけど、どこがどう男なのか、よく分からないんだが。



「……自覚ない辺りが余計男や…」


「お前は自覚から悩みすぎだ」


「痛っ!蹴るな!!どんだけ暴力的なん!?」


「もうさっさと会長のとこ行って来いよ!コクってこいよ!!」


「いたたっ!痛いっちゅうねんっ!!」



ウサギ飛びみたいにしゃがんだまま逃げる副会長を、ゲシゲシと片足を出しながら追いかける。



「できたら苦労してへんわ!!」


「ラブレターでも何でもいいよ!直接できないなら電話でも何でもしろ!」


「毎日家で顔合わせとるのに、わざわざ電話なんてできるかい!!そっちのがハードル高いわ!!」



会話は平行線のまま、足は屋上の隅を目指して進んでいく。


運動神経がいい副会長は、その間ずっとウサギ飛び。


単純にすげぇ、この人。



「だいたい自分はなあぁっ!!」



キーンコーン



「あ」


「お」



そろそろ隅に追いつめそうだった所で鳴った、授業終了のチャイム。


何となくお互いの顔をみつめつつ、副会長は立ち上がり、ボクも顔を少し上げた。



「………」


「………」


「……戻るか」


「そうだね」



チャイムが鳴ったら動く。生徒のさがか。


校内に戻る為に、踵を返して隣に並ぶ。



「自分は次の時間なんや?」


「数学。副会長は?」


「美術や。移動せな」


「副会長、絵めっちゃ上手いよね」


「まぁな。美術は得意やねん」


「隼人君に教えてあげてよ」


「あいつは独創的すぎて無理」


「ははっ、独創的って…!」



ドアノブをひねり、引く。


目の前の階段を降りれば、あとは別方向だ。



「ほなな」


「うん。頑張れよ」


「余計な世話や」



片手をあげて会釈して、副会長は美術室に。


ボクも教室に向かって、廊下を歩き出す。



まぁ、なんだ。


授業サボって、良かったな。


次会ったら、また絡みに行こう。






新しい友達ができたかもしれない

((なんかムカつくけどな!))

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