飴乃寂
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「忘れ物はねーか?課題やったか?」
「うん」
「弁当は?」
「持った」
「学生証」
「ある」
「ハンカチ、ちり紙」
「それ聞くの!?持ったよ!」
鞄を持って、真っ直ぐ玄関へ向かう。
後ろからついてくるジンの質問に答えながら靴を履き、ドアノブを掴んだ。
「んじゃあ、いってき……」
「外は雨だぞ」
「それを先に言ってよ!」
外に出かけたところで傘立てから水色の傘を一本取り出し、今度こそドアを開ける。
軽く後ろを振り向くと、ジンが片手をあげた。
「行ってこい」
「はいはい、行ってきますよっと」
とにもかくにも、ボクの朝はこれから始まる。
ここは集合住宅なので玄関を出てエレベーターに乗り、一階のロビーまで降りる。
スーツを着たサラリーマンが早足で脇を抜けていくが、この時間帯は、ほとんど学生の時間だ。
傘をさして外に出てみれば、同じ制服があちこちに見える。
「ゲッ」
「お、この声は」
失礼な声がして今出てきた自動ドアを振り向くと、同じ銀髪碧眼でも、随分幼いイケメンがビニール傘を片手に立っていた。
さっきジンがボクにそうしたように、傘を持った手と反対の手をあげる。
「おはよ、一緒に学校行こうぜ獄寺君」
「っるせー!近寄んな変態!!」
出会ったのはごく最近なのに、とっくに見慣れた顔と服装。
ジンに会ったのも夢の中の出来事なんじゃないかと疑っていたが、それも登校初日で、よく分からなくなってしまった。
「ほらほら遅刻するよ?ヒバリ様が待ってるよ?」
「うぜー、咬み殺されろてめぇ」
「その時はまた助けてね獄寺君」
「あれはてめぇの為じゃねぇ!!十代目の為に仕方なくだ!勘違いすんな!」
「じゃあツナ君に、ボクが獄寺君に助けてもらえるようお願いするかな」
「果たすぞ」
「うわガチだこの人、はは」
「笑ってんじゃねーっ!!」
ジンも最初のトリップで、ボクの元いた世界は潰れた。こんなことは初めてだ。それなりの理由があるはずだと言っていた。
単純に考えて三次元から二次元へ、次元なんてものを超えたせいだろう。
超えられるものなのか。実はあのイケメン、とんでもなくスゴいこと仕出かしたんじゃないのか。
現に、ボクにとっては悪夢しかないパラレルワールドの――――二次元間のトリップで潰れた世界はないようだし。
そう言ってみればジンも深くツッコむことなく、案外すんなり納得していた。
これがただの壮大な夢なら、三次元から二次元へ超長距離トリップしたという仮説は成り立たなくなる。
じゃあこれは、やっぱり逃れることのできない現実なのか。
ちらりと横を見ると、片手で傘を持ちながら気だるそうに煙草をくわえている留学生が、真っ先に視線に気づいてガン飛ばしてきた。
「ま、いっか」
「あ゙ぁ!?なに急にやけてんだよ?」
「楽しいね、獄寺君」
「楽しかねぇよ、なんでてめぇなんかと登校するハメに」
「同じマンションなんだから仕方ないじゃまいか」
「それが納得いかねぇんだよ!もう引っ越せ!」
「無理だね」
自覚はなかったが、ボクは楽天家なのかもしれない。
まだ分からないことの方が多いし、これからゆっくり、目標に向かいますかね。
緩やかにくだる
(それではこれから、今までのボクの学校生活を、みんなで振り返ろうか)