飴乃寂


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―――――ジリリリリリッ



「―――――っ!!!」



すぐ近くでけたたましい音が鳴り響いて、がばっと一気に起き上がる。


下から慣れ親しんだスプリングを感じるし、両手で握りしめた毛布も自分のものだ。


ここは自分の部屋だ。


ほ、と安心したのも束の間。


どっとかいた冷や汗が気持ち悪かったが、まずは息を整えることに集中した。


体を丸めて前髪をかきあげつつ、額の汗を拭う。



「なんつー夢見てんだ………」



めっっっちゃ恐ろしかった。


夢の中でももう二度とごめんだ。



「あ、起きた」


「うわあぁっ!?」



ガタッ、ドタンッ



「驚きすぎだろ」


「いやあのっ、えっ!?どっ、どちら様!?」



誰もいないと思っていたのに、案外近くから聞こえた声に、ベッドからずり落ちた。


が、尻餅に痛がってる暇はない。声がした方を見ると、また見知らぬ男がいた。


うわやべぇイケメンだ。今度は美形だ。


背が高いし、瞳も碧い。日本人には見えないが、話す日本語は流暢だ。


イケメンは不審な目でボクを見ていたが、やはり何かおかしいと思ったのだろうか。


立ったまま背を曲げて、顔を近づけていた。美肌じゃねぇかおい。


自分を指差し、口を開く。



「…………俺の名前は?」


「えっ!?えー………と……?」



今度は人差し指は、ボクの方を向いた。



「お前の名前は?」


「えっと、品臣イチノ……です……」


「ハンドルネームは?」


「リンコです。あ、オフ友限定でリコって呼ばれる」


「攻めの反対は?」


「う、受け?」


「裏部屋ってどんな部屋?」


「そりゃ(ピーーッ)」


「………」



いくつか質問してから、イケメンは口を閉じた。


相手の反応が怖くて様子を伺っていると、イケメンはおもむろに立ち上がり、踵を返す。


そのままドアノブを掴み、開ける。



「朝はただでさえ時間ねぇんだから、寝惚けてないでさっさと支度しろよ〜?」


「ちょっと待て!!!今なんかおかしかっただろ色々と!!!」


「ぐはっ!?」


「あ、やべ」



イケメンに枕ぶつけてしまった。


枕は小さく破裂して中の羽毛がひらひら飛び散っている。


その中でうつ伏せになっているイケメンがゆっくり立ち上がり、真っ直ぐこちらへ歩いてくる。


俯いてて、その顔は見えない。


どうしよう、怒ってるっぽい。


美形が怒ると超怖いって聞くんだけど、どうしようもうすぐそこまで迫ってきて……。


ガッと両肩を掴まれ、反射的に謝ろうと口を開いた。が、相手の方が早かった。



「マジすまっ……」


「いてぇだろうがバカァーッ!!」


「!?」



聞き間違いだろうか。


泣き声が聞こえる。



「お前なんでそんな暴力的!?俺なんかしたぁ!?お前俺に一体どんな恨みがあって……」



聞き間違いじゃなかった!!


めっちゃ号泣してる!?



「ねぇ聞いてる!?お前のその手が先に出るとこ、お兄さんはよくないと思うよ!?暴力に訴えちゃダメだと思うよ!?」


「えっ、うん、ごっごめっ……」



なんでそんな泣いてんのっていうか、こんな性格のイケメンだったのか。


本当に悪いことしたかもしれ、



「お兄さんにだって繊細な心があるんだからね!?いくら腐ってても、女の子からは優しくされたいって願望があってね!?」



悪いこと…………



「お前のそういうとこ治らないうちは、男ができずに売れ残っちゃうんじゃないかってお兄様は心配しててね!?」



悪い、こと………



「ボクっ子でも見た目だけは良いから変なマゾ男に好かれそうだけど、そのせいで怖い目にあったらと思うとお兄様は、」


「鬱陶しい!!!」


「ぶふっ!」


「余計なお世話だっての!!美形だからって顔は狙われないと思ったら大間違いだぞ!!」



それに褒めるかけなすかどっちかにしろよ!!


名前もお兄さんからお兄様になってたし!


だいたいねぇっ!とアッパーカットで再び床に沈んだイケメンを指さす。



「ジン!君そんなキャラじゃないだろ!?ジンが号泣とか全身に鳥肌たっ……んっ?」


「…………」


「待って、タイム。タイムアウト」



両手でアルファベットのTを作り、脳内にある会議室のドアを開ける。


議題、目の前のイケメンの名前について。


結論、本人に聞く。


二秒後にバンッと会議室を出て、こちらをじと目で見るイケメンを恐る恐る振り返る。


先程までの泣き顔はどこへやら。イケメンは床に寝転がったまま肘をついて手で頭を支え、尊大な態度をとっていた。


神様にトリップに、頭にはもう最近あったことがありありと思い浮んでいた。



「………え〜っと……ジン君?」


「…………」



苦し紛れに笑顔を浮かべると、数秒後イケメンもにっこり笑った。



「あなたのライフパートナーの、ジン君でぇすっ!」


「ウザい」


ぐしゃっ


「ぎゃっ」


「やべ、またやっちゃった……」



だって踏みやすいように寝転んでるから。


そのままぐりぐりと背中を踏みつけていると、イケメンことジン君はボクの足を掴んで起き上がった。



「だーくそっ、踏むな!まず踏むのを止めろ!やっと思い出したか。寝惚けるのも大概にしろおま……」


「踏み心地いいねジン!」


「止めろ!そんなキラキラした目で見るな!俺は開花させる気はない!!」



ずざっと後退りしたジンは恐ろしいものを見る目でボクを見ていたが、すぐ立ち上がるとボクの方に手を伸ばした。


あれ、殴られるのこれ?仕返しされるの?


じゃあ仕返しの仕返しってあり?



「わっ」



ジンの手は力を奮うことなく真っ直ぐボクの頭に伸びてきて、わしゃわしゃと髪をかき混ぜた。



「まぁいいわ。随分うなされてたから様子見に来たんだが、大丈夫そうだな」


「えっ?うなされてた?」



手が離れていったところで頭を押さえると、ジンは話は後にして着替えろと言った。


そうだ、まだパジャマだったな。


これから学校だし、早く着替えなきゃ。




 
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