飴乃寂
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自称神様と初めて会った日から、早くも一週間ほど経つ。
面倒臭いので神(ジン)と呼ぶことにしたイケメンと、真っ白い空間(狭間と呼んでいるらしい)を出て、今は一つ屋根の下だ。
自分の歳が分からないと言ったら、じゃあ中学生辺りでいいんじゃねぇか?とジンの投げやりな助言もあり。
そういえば、パラレルワールドでも中学生の自分が多かったなということで、ボクの肩書きは十四歳だ。
度重なるトリップのせいで、なんかもう世の中を色々と知っちゃってる気もするが。
「………お面の男に襲われた?」
「うん、そこで目が覚めた。あの感じだと、多分助からない」
「おいおい、そこは希望を持てよ……」
変わってリビング。
ジンの手料理に舌鼓をうちながら、夢で見たことを話した。
ジンは頬杖をついて、やれやれと息をついている。
因みに、ジンの前に食事はない。
食べれないことはないが、自分の体に栄養がいくわけでもないし、空腹も感じないから、食べる必要性を感じないそうだ。
そんなものなのか。
しかしぼんやり座っているこいつの前でボクが一人食事をするのは、意外にすぐ慣れてしまった。
「昨日は事故死だわ今日は襲われるわ、お前の人生に楽しい思い出はないのか?」
「泣きたくなるようなこと言うな!!パラレルワールドの話だ!!」
箸を持ったままダンッとテーブルを叩くと、ジンはわりーわりーと苦笑した。
畜生。なにもかもこいつのせいだ。
トリップした理由は教えてくれないし、部屋を借りて新生活が始まったら始まったで、毎夜のように悪夢を見るし。
恐らく、というかもちろん、パラレルワールドにトリップを繰り返してた頃の記憶だ。
元の世界とそれ以外の判別は、案外簡単だった。
顔のキズと、記憶の終わりがあるかどうかだから。
が。だ、が!
「トリップを続けてた理由が、死んでその世界にいられなくなったからって!嘘だろ!?もっとマシな理由はないの!?」
夢が覚める直前は、いつも物理的に死にかけているか、死にたいほどの衝撃を受けた時だ。
もはやボクは、何度殺されたのか分からない。
あの夢の後、夢の中の―――否、あのパラレルワールドにいた自分はその後も生きているのか死んでいるのか、感覚的に分かってきたくらいだ。
自分が確かにここに存在している事実と、それを証明するこの神様がいなかったら、とっくに全てに絶望していたに違いない。
「そもそもお前がトリップなんて気を起こさなければ、こんな悪夢を見続けることもなかったのに!!」
「いつまでも過去にすがるんじゃねぇよ、前を見ろ。前を」
「過去を思い出せって強要したやつが、いけしゃあしゃあと……!!」
終わらない殺戮。被害者はオンリーミー。
涙で前が見えない。
「終わるものか……廻るばかりだ………だが、わたしは負けない!」
見る夢は、パラレルワールドの記憶ばかり。
案外簡単に思い出せるんじゃないかと思った元の世界のことは、退部の件以降、ほとんど進展がない。
肝心なもの含め、まだまだ分からないことの方が多い。
でも全部思い出したらジンからトリップの理由を問いただして、ぶん殴るんだ。殴るのは決定事項だ。
それが、ボクの今後の目標だ。
某漫画の台詞を引用しつつ、箸を置いて手を合わせる。今日も美味しいご飯でした。
イケメンで家事できて、アホそうに見えて頼りにならないアホで、こいつ本当にイケメンだな。残念だな。
初日の宣言通り、ボクが生活できるよう家政夫兼保護者役を買って出たジンの仕事っぷりは、完璧だ。
腹立たしいほどに、完璧だ。(二回目)
「ご馳走様でした」
「おう」