飴乃寂
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少年には未練がありました。死ぬ前に見た女の子を、無事助けられたのか。
気になって気になって、夜も眠れません。
珍しく眠れた日のことでした。
夢の中に、神様と名乗る男が現れました。
周りは真っ白で、傍に湖があるだけの、不思議な夢です。
その神様も少年を見て驚いていましたが、ここに辿り着いた褒美をやろう、と言いました。
なんとその女の子を、探してくれるというのです。
神様は少年に、一緒に探しに行くかと訪ねました。
少年は嬉しくて頷きかけましたが、すぐに自分の小さな掌に気が付きました。
少年は背丈が大人達の腰しかないほど、小さな子供です。
そして不幸なことに、自分の未来を知っていました。
いいえ。もしかしたらこれが、幸い、ということなのかもしれません。
未来を知らなかったら、少年はすぐ神様に、見つけた女の子の元へ連れて行ってほしいと願ったでしょう。
ですがそうなったら、同じ施設に残された子供達は、一体どうなるのでしょうか。
あそこは遠くない未来で、ある少年によって潰されます。
その少年がいなくなったら、子供達はいつまであそこで苦しい思いをするのでしょうか。
逆に女の子をここに連れて来たら、きっと大人達の実験台にされてしまいます。
いくら逃げ出したくても、非力な子供の力では敵いません。
逃げ出すには、女の子に会った後も一緒にいる為には、力がいります。
少年の周りにいる大人達がマフィアと呼ばれる悪人なのですから、どんな大人からも身を隠し、守れるような力が必要です。
少年はしばらく考えてから、神様には一緒に行けないと答えました。
「明日は、僕の番なんだ。施設を抜け出したらすぐバレる……見つかって連れ戻されたら、何をされるか分からない」
力強い声でした。少年は自分の先を見て嘆いているわけでも、怖がっているわけでもないようです。
しかし次に浮かべた笑顔は、引きつっていて不恰好でした。
「多分あいつらが話してた、一番キツい実験ってのを、されると思う……いくら、素質があるからって言っても………最悪、死ぬかもしんない……」
神様は疑問に思いました。
死ぬと分かっているなら、尚更自分と一緒に来ればいいのにと。
それを言えば、少年は強く首を横にふりました。それはできない、と。
「だから、あそこに……あそこにあのコを、連れてきてほしい……」
「あそこ?」
「あぁ……一番、安全なんだ。あそこは。安全じゃなきゃ、困る……」
少年は強く強く、服の裾を掴みました。
ほつれのあるみすぼらしい服にシワが寄り、ペンで服に直接書かれた696の数字も、しわくちゃになりました。
少年は笑顔でしたが、やはりどこか、ぎこちない表情です。
「ボンゴレファミリーって名前の、マフィア達に。あそこならきっと、僕も会えるから」
神様は、再び疑問に思いました。
マフィアという人間が安全かどうかも怪しいですが、少年の話を聞くに、少年は「あのコ」に会いたいようです。
「おい、お前も俺と一緒にそのボンゴレに行けばいいじゃないか。そうすれば、死ぬような実験を受ける必要もない」
提案するというよりは、少年があえて危険なことをしようとしていることを、咎めたい気持ちでした。
しかし少年の返事は、頑なにノーです。
「僕には必要なことなんだ。会えても、守れなきゃ……意味がない」
「死んだらもっと、意味がないぞ?」
何故だと更に首を傾げた神様に、少年は困ったように笑いました。返す言葉もありません。
「ごめん、撤回する。僕は死なない。絶対に」
どうやら神様にも、未来まで見通すことはできないようでした。
「ここが僕が思った通りの世界なら、死ねないよ。六道骸は」
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