a little◇笠松幸男◇黒バス夢長編
□a little 02
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体育館の階段をのぼり、ギャラリーに足を運ぶ。
もともと、笠松を見にくるのが目的だったが、練習を見学しているうち、バスケを見ているのも楽しくなっていた。
バスケ部メンバーが、ボールを放っていく。
スパッ、といい音をたて、ゴールに吸い込まれていくボール。
(きれい。よくあんなにきれいなフォームで打てるなぁ…)
そのとき、ボールがギャラリーの柵の間に挟まった。
「悪い苗字、ちょっととってもらってもいいか?」
か、笠松先輩っ!
はやる気持ちを押さえながら、挟まっているボールをとる。
『はい、どうぞ』
「ありがとな」
『いえいえ。練習頑張ってくださいね』
「おう、さんきゅ」
こんな少しの会話ができただけで、嬉しい。
……私、気持ち悪いかな。
そう思ってふと下を見ると、黄瀬が含み笑いをしていた。
とたんに恥ずかしくなってくる。
黄瀬、あとでしめなきゃ。
黄瀬と話すとファンがうるさくなるので、人がいないところで話すのが2人の暗黙のルールだった。
バスケ部の活動を見学したあと、名前は忘れ物をしたことに気づき、教室へ向かった。
『確か引き出しの中に……。あっ、あった』
課題であるプリントが入ったファイルを鞄にしまう。
すると。
「名前っち」
『あれ、黄瀬?』
「こーんな時間に、何してんスか」
『ちょっと忘れ物しちゃって』
「まったく……。女の子がこんな時間に一人で帰るなんて危ないじゃん。送っていくっス」
『え!いいよ、大丈夫だよ』
「名前っち」
『…はい』
「何かあってからじゃ遅いんスよ。ほら、早く帰ろ」
『ん…ありがと』
とはいったものの、黄瀬と2人で帰るほうがある意味危険かもしれない。
…ファンの子に刺されそう。
そこである疑問が。
『そういえば、黄瀬はなんでここに来たの?』
「俺っスか?俺は名前っちをみかけたんでセンパイに待っててもらって追いかけてきたんスよ」
『わざわざ追いかけてきてくれたの?』
「まあ、そうなるっスね」
『ありがとう…なんか心配かけちゃって。…ん?あれ、黄瀬今なんて言った?』
「は?」
『先輩待たせて…って言わなかった?』
「うん、言ったけど」
『せ、先輩って?』
「決まってるじゃん、笠松センパイっスよ」
『え!ちょっと待ってどういうこと』
「だーかーらー、笠松センパイと俺と名前っち、3人で一緒に帰ろって言ってるんスよ」
『なっ、なにそれ死んじゃう』
「…あのね、名前っち。」
戸惑う名前に、黄瀬から一言。
「この提案したの、笠松センパイなんスよ」
それは、一緒に帰ろうと提案したのが笠松だという驚きの事実だった。