a little◇笠松幸男◇黒バス夢長編
□a little 02
1ページ/2ページ
私が体育委員なんてありえない。
そう思いながら、苗字名前は職員室から逃走したあと、体育館に向かっていた。
なぜなら、バスケをしている笠松幸男をこっそり見学するのが最近の日常と化しているからである。
こっそりといっても、バスケ部のメンバーにはとっくに気づかれているのだが。
……はじまりは、入学式当日。
体育館の位置が分からず困っていたところ、笠松に助けられたのがきっかけだった。
「……お前、1年か?」
確か、そんなセリフだった気がする。
明らかに挙動不審な私に、ぎこちなくも声をかけてくれた。
『は、はいっ』
「もう入学式始まるぞ。……もしかして、迷ってるのか?」
『じ、実はそうなんです…。トイレ探してたら迷っちゃって』
「あー…。じゃあ、来い。俺も今から行くところだから。」
『本当ですか?!た、助かります…!』
「いや……別に、気にするな。」
そのあと笠松は、体育館に着いて、名前が礼を言ったとき以外は一言も言葉を発しなかった。
緊張していた名前にとってそれは、気を使ってたくさん話しかけられるより、ずいぶん楽だった。
きっと。
不器用で、それでいて頼り甲斐のあるその姿に、惹かれたんだろう。
それから名前は、あの先輩にまた会えないかな、なんて思いながら日々を過ごした。
同じ1年である、黄瀬を知ったのはそのあとだった。
放課後、その先輩と一緒に歩いているのを見かけた名前は、たまたま1人になった黄瀬に声をかけ、聞いてみた。
『あのっ!』
「ん、俺…?」
『うん…その……』
「どうしたんスか?」
『えっと、さっき一緒にいた先輩、のことをちょっと聞きたいんだけど…。わかる?』
「あぁ、笠松センパイ?」
笠松さん、っていうんだ。
『た、たぶんその人。何部か知ってる?』
「バスケ部っスよ」
「バスケ部、かぁ……。あっ!教えてくれてありがとう!」
「どういたしまして」
笑顔でそう言われ、整った顔の人だなーなんて思いながら、その場をあとにする。
親切な人でよかった。
その後、名前と黄瀬は、笠松のことでいろいろ相談しあうくらいには仲良くなるのだが…
それはまた、別のお話。