short

□口下手少女
1ページ/1ページ




私はおっきいワンコを飼っています


   口下手少女は



「海美っちー!」

「っ!
…おはよ、涼太、重いどいて」

「恋人に抱きつかれて第一声がそれっスか!?

海美っち、相変わらず冷たいっス…」


黄瀬涼太

私の彼氏

涼太はモデルで、街を歩けば必ず声をかけられ、話し掛けられ、ニコニコしながら握手をする、今を輝く国民的アイドルだ

そんな涼太と特に可愛くもないし、全てが平均的な普通の私が付き合ってるなんて、今でもたまに疑問に思う


「冷たくない
邪魔なものは邪魔なの、重いし」


背が高い189の涼太と155の私

そんな体格差で抱きつかれたら、私はこのでかいワンコを受けとめなきゃならない

そのうち私は、涼太に押し潰されて死にそうだ


「とか言って〜、万更でもないくせに!」


顔を急に覗かれ少しびっくりする

ほんとに涼太の顔は整ってる


「ち、近いッ…!」

「顔真っ赤にしちゃってー、可愛いっスね

…もっといじめたくなっちゃうっス」


ニヤと笑った彼にさえ、ドキドキしてる私の心臓は早くなるばかりだ


「ふ、ふざけないで!」


逃げようとしたら強い力で抱きしめられる

力の差は歴然だ

私が涼太に勝てるわけがない


「…ねぇ、海美っち、俺のこと好きっすか?」

「……は?」


何だこのワンコは急に


「いや、最近ちょっと不安になるんスよ

何か俺ばっか好きな気がして…」


少し離れて涼太の顔が見えた

何でそんなに悲しそうな顔してるの

私、涼太のこと大好きなのに
涼太が私のことを好きな以上に、私は涼太が大好きなんだよ


「涼太、ちょっと私に合わせてしゃがんで」

「ん?…これでいいっスか?」


私を一旦離して中腰になった涼太に近づいて、キスをした

一瞬だけど。


「…海美っち……」


パッと離れて涼太の顔を見てみると頬が赤くなってた

きっと私も涼太に負けないくらい真っ赤だ


「涼太ばっかり好きだなんて、そんなことあるわけないじゃん

私のほうが涼太のこと…す、好きだもん」


好きって2文字のこの言葉が、こんなにも難しい単語だとは思わなかった


「私、あんまり喋るの好きくないけど涼太と一緒にいるの楽しいよ

その…いつも冷たいのは……ドキドキしてるからで…本当は、嬉しい、からわっ!」


腕をひっぱられて気付いたら涼太の腕の中

ぎゅうっと抱きしめられる
さっきよりも強い強い力で。


「涼太…?」


涼太の顔は見えない

なんとなく行き場のない私の手が淋しくて、涼太の背中にゆっくり手を回した

背中あたりのシャツをぎゅっと握ると、ピクと涼太の体が動いた



それからどれくらい経ったんだろう

2分…いやもしかしたら5分以上お互い無言で抱き合っていたかもしれない

涼太の腕の中はあったかくて、心臓の音さえ心地良いものでなんだか眠くなってきてしまうくらいだ


「…海美っち」

「ん?」

「俺、ほんとに海美っちのこと大好きっス

好きで好きで好きでたまらないっス

海美っちのこと疑うようなこと聞いてごめん…」


シュンとしてる涼太が可愛いと思いながら、背中に回していた右手を移動させて涼太の頭を軽く撫でた


「涼太は何にも悪くないよ?

冷たい態度とって不安にさせちゃった私が悪いの

どんな思いも言葉にしなきゃ伝わらないもん、ごめんね」


離れた涼太はもう悲しい顔をしてなくて、私の大好きな笑顔だった


「お互い様…かな…?

海美っちの本音聞けただけで充分っ!

大好きっスよ!」


最後の一言でまた私をガバッと抱きしめた

…もう、すぐ抱きついてくるんだから

でもイヤな気分じゃない


「私も、だーい好き」


そう言って、ぎゅっと私も抱きついた




伝えることを知った
(涼太大好き)
(俺もっスよ)



バカップル誕生。
'12,11,20


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ