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□大切な日
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「…」
只今、松岡 凛の機嫌が著しく悪いです
天気が生憎の曇り空のなか、今日は松岡 凛にとって大切な日だった
それは、年に1回しかない、誕生日なのだ
それに今回は初恋をやっと実らせて、彼氏である橘 真琴がいる
しかし、何故凛の機嫌が悪いのかと言うと、真琴からの着信が皆無だからである
大抵のカップルは、前々から、一緒に一日を過ごす計画を立てたりだとか、日付が変わると同時に、一番最初におめでとうを言うとかをするもんだと思っていた
なのに、真琴からそれらしい誘いや、着信がない
携帯を握りしめながら、凛は寮のベットの上に倒れ込んだ
いつもなら煩く構ってくる同室の後輩は休日を使い、実家に帰っていた
「(まあ、静かでいいけど…)」
愛用している枕に顔を埋めながら、携帯を見やる
携帯の時計を見ると、23:50をさしていた
あと10分もすれば、今日が終わり、俺にとって特別な日も終わりを告げる
それなのに、電話もメールも寄越さない真琴に怒りを感じつつも、俺が真琴の眼中に入ってなかったことに悲しさを覚えていた
好きだって思ってたのが自分だけのように思えて、目が霞んだ
なんで、今日という日に泣かなければいけないのか
真琴のせいなのに…
時計が23:58をさしたとき、俺は諦めた
真琴から着信は来ない
諦めて、寝てしまおう
これ以上、期待したくない
これ以上、泣きたくない…
すると突然、手に持っていた携帯が振動した
体を起こしながら、携帯の画面を見ると、真琴の文字が目に入った
こんな時に、もう大切な日は終わったのに…
怒りが限界に達しかけながらも、真琴からの着信を嬉しいと思っている自分がいる
気持ちを整え、電話にでる
『もしもし、凛?』
聞き慣れた、大好きな真琴の声が機械ごしに聞こえてきた
「…なんだよ」
『なんだよって…、凛の誕生日祝いに電話したのに』
「…あ?」
『誕生日おめでとう、凛』
…訳が分からない
俺の誕生日を祝うため?
なんで今?
頭の中が混乱していたが、真琴の声が聞こえ、現実に戻される
『まだ23:59だよ?』
「…?」
『特別な日の最後に祝ったら、凛の記憶に残りやすいかな?って思ったんだけど』
どう?と言われ、顔が急速に熱くなる
記憶に残りはするが、こんな恥ずかしいことをして、コイツは恥ずかしくないのかっ!?と思った
『凛?』
「…ばかまこ」
『ん?』
「っ…、ずっと、待ってたんだからなっ!?」
『っ!?』
一日中待ってた、皆に祝ってもらいながら、お前のことばっか考えてたんだからな…
涙をこらえていたが無理だったらしく、有り得ないほど流れ出てくる
すると、向こう側から焦った声が聞こえてきた
『凛、ごめんね?…じゃあ凛、今寮にいる?』
「?いるけど?」
『今から会いに行く』
「っ…はぁ!?」
今から!?こんなに泣きはらしているのに?
俺は嫌だ、会いたくないと言ったのだが、真琴は聞かなかったらしい
それでも、真琴に会えるのが嬉しい
日付はもう変わってしまっているが、今度はちゃんと真琴の口から聞きたい
こんな誕生日も、悪くないかなと思ったのは、真琴にも内緒