main【銀魂】

□「さよならベンチ」と。
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「はい、我が家でーす」

銀さんは「万屋」と書かれた家の戸を開けようとした。

その瞬間…

「おんどりゃーーーっ」

「ぐふっ」

正面から足が飛んできた。

「ちょっ…オッサン大丈夫かっ!?」

「ん?マダオ?なんでマダオがここにいるネ?」

「それより神楽てめぇ、とりあえず攻撃すんのやめろよ!」

「あ、おかえりなさい。銀さん」

何事もないかのように奥から出てきたのは新八くんだ。

割烹着姿がよく似合う。

「『新聞屋です』もしくはババァの時だけ攻撃しろ、分かったかっ」

いや。いやいや…家賃は払おうよ…。気持ちは分かるけど。

ていうか、俺も経験あるけど。

それに新聞屋に飛び蹴りはよくないって。

あと、俺のことももう少し心配して。


「あー、そだ。今日長谷川さん泊めるから」

「すまねぇな、世話になる」

「大丈夫ですよ。ていうか、銀さん」

「ああ?」

神楽ちゃんと睨み合ってた銀さんが不機嫌そうに新八くんに返事する。

「今日、僕達いないって言ったじゃないですか」

「え?なに、そうだっけ?」

「そうですよー。今日は姉さんが家に来て、って言うんで帰りますから。ついでに神楽ちゃんも」

「そうだったアル!今日は女子会アル!」


「違いますよ。最近、近藤さんのストーキングがエスカレートしてるから来てくれって」

近藤さんって、新撰組の局長だよね?ストーキングがエスカレートって…

江戸は大丈夫なんだろうか。

「あの女なら心配ねぇだろ」

「まぁ…。でも心配なんで」

「ん。分かった。っつーことだ、長谷川さん」

「ん、わかった」

何が分かったのか分からないけど。

反射的に返事しちまった。

まぁいいや。


「行ってきます」
「行ってくるネー」

「行ってらっしゃーい、気をつけて」
「いってらー」


二人きりになった瞬間、とてつもなく静かになった。

「まぁ、上がれよ」
「お邪魔します」

「そこ座っといてー」

指差されたソファに素直に座る。

ビールやらつまみやらを出す銀さんの後ろ姿を見つめる。


かっこいいなぁ、と思った。

引き締まった体で、がっちりしてて、筋肉も適度に付いてて。


あの体でいくつも戦ったんだなぁ、とか。

あの腕で抱きしめられた女の子はさぞドキドキするだろうなぁ、とか。

足長ぇ…とか。

そんなことだ。

今日はなんだか乙女思考だ。

どうしたんだ、俺!


「なんか新八が晩飯作っといてくれたみたい。後で食おうぜ」

「ああ」

新八くんはいいお嫁さんになりそうだ。男だけど。

「それでは、カンパーイ」
「カンパーイ!って、何の?」







「ん?長谷川さんに告白した記念」







「告白って、銀さん。そんな言い方されるとアレだよ、アレ」

冗談キツイんだから。


「なに、その気になっちゃう?」

「っぶはっ。なに言ってんだよー」

銀さんは急に真顔に戻った。

「やっぱ冗談だと思ってたか…」

何が?え、何が冗談…?




………………。

まさか…

「あれな、本気だから」

「あれって、…アレ?」

あの、『俺が長谷川さん好きだから』ってやつ?

「え、じゃ…ちょっ…待って。え、?」

「今日、あいつらいなくてよかったわ」


銀さんが改まって口を開いた。

「どうやら俺は好きらしいんだわ、長谷川さん」

そんなこと、言われても…

「ごめ…頭ついていかな…」

「長谷川さんは俺のこと嫌い?」

「嫌いじゃ、ない」

優しいから。

「じゃあ、好き?」

それは…

「…分かんない」

「じゃあ、好きってことにしといてよ」

なんだ、その理論。

そう思ったけど、銀さんの声があまりに切実だったから。

普段は聞かないようなお願いするような声だったから

俺は思わず

「じゃあ、好き」

そう言ってしまった。

そうしたら、よく分からないままだった頭が整理されてきて、

銀さんの腕に抱かれたいなー、とか考えるようになった。


さっきまでは他人事だった銀さんの腕の使い道が、急に自分事になった。

「あの、さ」

お互い素面のはずだ。

こんなん、普通なら気持ち悪いと思うはずなのに

「銀さんの腕、触っていい?」

「おう」

差し出された腕に恐る恐る触れようとすると、その腕に掴まれた。

「やっぱだめ。どーせなら抱かれてよ」

いつも通り軽い口調で、いつになく真剣な声。


「…銀さんのこと、好きかどうか分かんないけど、いいの?」

「好きってことになってるからいいの。


でも好きって言うまで抱いてやらない」







「じゃあ、好き」


多分、好きなんだろう。

その腕に抱かれたいとか、その腕は自分のものだ、とか思ってる時点で負けだ、負け。


どーせ考えたって分かんねぇなら、賭けてみるしかねぇじゃん。

自分の揺らぎやすい心に。
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