時を越えて(完)

□さん
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「剣心!!」


ぎゅう、と抱き締めて肩に顔を埋める。
ああ、剣心の匂いだ…
変わってない、私を安心させる匂い。


「剣心…?お知り合い?」


剣心の後ろから聞こえた声にハッとして、 慌てて手を離す。


「あぁ、拙者がずっと探してた人でござるよ!」

嬉しそうに 弾んだ声で私を抱き締めたまま振り返り、声の主に答えた。

「…え?」

「おぉ?なんでェ 剣心の知り合いか?」

「だったら そいつも維新志士か?」

戸惑う様な女の声とは別の声に剣心がりのを離し肩に手を置いて紹介してくれる。

「あぁ、藤咲…」

剣心は言い掛けてハッとりのを見た。


どう見ても男装をしている。

「藤咲 蓮。よろしく」

ニコッと愛想良く笑うと最初に声を掛けて来た女子と長身の男に童が、顔を真っ赤にした。

「蓮 、良かったらこっちで一緒に食べないか?薫殿 どうでござろう?」

「え…、えぇ、もちろん!一緒に食べましょう、 蓮さん」

「いや、折角だけど、遠慮しておくよ。仲間内で来てるんだ、私が入っては水を差すだろう?」

剣心の提案に薫と呼ばれた人は了承してくれたが、はっきりいって 微妙だ。

十年振りに会った想い人の隣には女性…。
どんな関係かは知らないけれど…。
他にも人はいるけれど、改めて剣心を見るとなんだか知らない人の様…。
高く結っていた髪は襟足で結っていて、鋭かった目つきが穏和なモノになっていた。

その変わり様が、少し…寂しかったんだと思う。

「遠慮する事ぁねェって、な?しっかし維新志士たぁ 皆いい面してんのか?剣心といい蓮といい…」

「なんか女みてェだな!ひょろっとしてて…」

「ちょっ!失礼でしょう?」


長身の男と童がマジマジと私を見て言うが、童は薫に拳骨をされて怒っている。
けど 女って言葉にドキッとした。
意外と鋭い…。

「確かに、昔より綺麗になったな…」

頭を撫でて、目を細めた剣心の笑顔は最後の夜に見たモノに似ていて、なんだか胸の辺りが苦しくなった。

「はは…それより食事をしてしまったらどう?私は出よう。気が散るだろうし…」

赤くなりそうな顔を隠して立ち上がると剣心の横を擦り抜け靴を履いた。

「遠慮すんなッて、言ったろ?」

通路に出た所で 長身の男に腕を引かれ 褄づいて思わずその男にしがみついてしまった。

「左之!」

剣心は思わず左之助を睨みつけてりのを自分の胸元へと抱き起こす。

「っと、なんでェ、剣心!んな怒んなよ!」

「すいません…って、私のせいじゃない!」

「はは!まぁ、気にすんなってェ 俺ぁ相楽 左之助!よろしくな」

「よろしく…?」

剣心の睨みも気にしないのか、豪胆と言うか何と言うか・・・
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