短編〜中編

□貴方の為に
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幕末、人斬りとして暗躍した。
一人を護る為だけに。

それでも傷付いてゆく心を癒せたのは、私では無かった。






「今日から 藤咲と組んで貰う緋村だ。面倒を見てやってくれ」

そう言って桂さんに連れて来られたのは、年の頃は私よりも少し上だろう男の子だった。

「!俺は一人で大丈夫です」

私を見た彼、緋村は驚いた顔をした後、厳しい顔をして桂さんにそう言った。
年下で、しかも女である私に面倒を見られるのは矜恃が許さないのか、はたまた、只の見下しか。

初めの印象は良く無かった。
生意気。それは緋村も思った事だろう。

「フン、何が一人で大丈夫なモノか。今にみろ」

ツン、と外方を向くと桂さんが苦笑いしてまあまあ、と宥めた。
緋村もカチンと来たのか此方も外方を向いている。

「部屋は隣だ、 藤咲、案内してやってくれ」

やれやれと溜息を吐きながら桂さんは、仲良くな、と残して護衛を連れて藩邸へ戻って行った。

「案内してやる。着いて来い」

それだけ言うと顔も見ずに歩き出す。着いて来ないなら来ないで構わない。勝手に困れ。

だが、それに反して緋村は大人しく後ろを着いて来た。

「ここだ、好きに使って構わない。必要なモノがあれば女将に言え」

障子を開けて最低限の説明をすると緋村を置いて自室に戻った。

なんて愛想の無い子供だ!
自分の事を棚に上げてそう思った。
一人で大丈夫な筈が無い。大丈夫ならそれは相当狂った人間だ。
初めて暗殺した時を思い出した 藤咲は苦虫を噛み潰した様な顔をした。
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