短編〜中編
□思い、想い、重い
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小間物屋で会った時は確かに綺麗な女子だと思ったが、それだけ。
その後偶然、あれは本当に偶然としか言いようが無いが、薫殿が刃衛に攫われそうになった時、薫殿を庇い攫われたのが りの殿だった。
本人曰く、使いの途中土手上を歩いて増水しているのに川上から船が一隻流れてくるのを不思議に思っていた所、同時に様子の可笑しな男も見つけたらしい。
「街の動きの中で違和感のあるモノを見つけるの、昔から得意なんです」
刃衛との闘いの後の帰り道、そう言っていた。
その為かスリや食い逃げ、果ては阿片の売人まで見つけた事があるらしい。
そして拙者が抜刀斎だと言う事が暴露たにも関わらず
「別にいいんじゃないですか?」
の一言。
これには参った。
剣「恐く、ないでござるか…?拙者が…」
「何故です?その抜刀斎と言うのも緋村さんなんですよね?抜刀斎になったら私も殺しますか?見境なく人を傷付けるのですか?」
剣「そういう訳ではござらんが…、人斬りは人斬りでござる」
「そういう訳ではないのなら、別にいいんじゃないですか?動乱が終わってまだ十年。今も人斬りをしてる人、過去人斬りだった人、なんてまだまだ沢山います…。大切なのは同じ人斬りでも中身。私はまだ緋村さんを良く知りませんが、それでも私の第六感が言うんです。緋村さんの本質は悪い人ではないって…あ!私の勘は当たるんですよ、ふふ」
そう言って笑った顔と、その言葉に胸を焼かれた。
同じ人斬りでも大切なのは中身。
ならば、この十年は無駄では無かった。
そう言って貰えている気がした。
その時から、もう少し彼女と話がしてみたい、会いたい、寄り添いたい、添い遂げたい、と話す度に会う度に、徐々に気持ちは増していった。
そして今に至る。
初めこそ全く意識されていなかったが、月日が経つに連れて会う度に彼女もやがて頬を染めて寄り添ってくれる様になった。
そうして告げようとした言葉。
剣「拙者は りの殿を…」
「緋村さん……」
照れ臭さが勝りはっきりと最後まで言えなかったが、頬を染めて嬉しそうに頷いてくれた彼女に気持ちは通じた。
聞けば彼女は一度祝言を挙げていた。
「夫は労咳にかかり病死しました。もう五年になります…」
そしてもう一つ、驚いた事は拙者の気持ちに気付いていた事…
気付いていながら、どうして全く気付いていない振りをしていたのか、 りの殿はゆっくりと話始めた。