御礼
□君の姿が
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食事も粗方終わり酒が進むと遂に山田さんが口火を切った。
「さて、本題に移ろうか…。りの、お前にはこれから緋村の昔の話を聞いて貰う。それを受け入れられるなら今後の付き合いも、もう口は出さないと約束しよう。いいな?」
「………はい」
何を話されるのか検討が着いているのかいないのか、表情を強張らせたりの殿は三人分の茶を入れると膝に手を置いて握り締めた。
「………拙者は…人斬りでござる」
「っ!?」
驚き目を丸くしたりの殿が拙者を見上げてくる中、何と無くこの先の話に目を合わせる事が出来なくて卓の上のお猪口をぼんやりと眺めながら口を開いた。
貧農に生まれ両親がコロリで死んだ事。人買いに買われ夜盗に襲われた所を師である人に助けられた事。修行半ばの十五で山を降り長州藩に籍を置いて人斬りとして暗躍。
妻を娶ったが、己の手で斬殺した事…。
その後遊撃剣士として動乱の京都に身を投じ鳥羽伏見の戦いを機に離藩、旅に出て今に至るまでを順を追って話し切った。
時折息を詰まらせたり鼻を啜り俯く仕草にまだ年若いりの殿が聞くには酷な話かと思いもしたが、今でなければならない気がして全てを話した。
どれ程時間が経ったのか。拙者の話す間誰も口を開く事は無く、終えた後もその場を沈黙が支配していた。
例え同じ藩だったとしても、影に徹した抜刀斎の事は山田さんが知らない事の方が多い。
どう思ったかは分からないが、彼もりの殿も沈黙を貫いていた。
「拙者の話は今ので全部でござるよ…」
「剣心…その、」
「いや…何も言わなくていい…」
戸惑うりの殿を制して席を立つと頭を下げた。
「今日の所は帰ります。失敬」
重い空気に耐え切れず逃げる様に出た部屋から山田さんがりの殿の名を呼ぶ声がして直ぐ、後を追う様に着いて来た。
「りの殿…」
「お見送り、させて下さい…」
「忝い」
揺れる瞳の奥に脆弱さを見られたく無くて視線を逸らすとただ並んで玄関までのさほど長く無い距離を並んで歩いた。
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