御礼
□君の瞳に
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彼女の涙を見た翌日はどんなに門前にいても会う事は無かった。
もしかしたら道順を変えてしまったのかもしれない。そう思うと迂闊な自分の行動に頭を殴りたい気持ちになった。
寝ても覚めても彼女の泣き顔と最後に見せてくれた笑顔が頭から離れない。
「もう逢えないのでござるかな」
溜息と共に出てきたその台詞に更に溜息を吐いた。
昨日まで散々門前の掃除をしていたのだ。
急にやらなくなっては怪しいかと箒を持って門を出る。
「(少し掃いたら中の掃除に戻ろう。洗濯もせねば…)」
「あ、おはようございます」
「ああ、おはよ…っ!?て、え、あ?お主…」
「?」
掛けられた声に振り向けば彼女がニコリと笑って立っていた。
散々悩んで悪い方にばかり考えていたのだ、驚きもする。
「いや、なんでもないでござる…。その、昨日は…」
「昨日?稽古が休みだったので家にいましたけど…」
それが何か?と首を傾げる彼女にガクリと力が抜けた。
「(全部勝手な思い込みだなんてオチ、拙者期待してなかったでござる)」
「あ、時間に遅れちゃう。それじゃ、失礼しますね」
可愛らしく小首を傾げた彼女は荷物を持ち直し通り過ぎようとしたのを咄嗟に引き止めた。
「あ、あの!!」
「はい?」
キョトリと振り返った顔に薄っすら頬を染めつつ剣心は意を決した。
「今日の帰り、少し話をしたいのだが時間はあるでござろうか…その、お茶でも…」
「私と、ですか…?……帰りなら、まあ…」
先日ほんの少し話しただけの相手に誘われたのが気になったのか、戸惑った反応をした彼女に断られても仕方ないと諦めようとしたが、続いた言葉に嬉しさからか、自然と笑顔になった。
「それでは帰りに…」
「はい、じゃあいってきます」
「いってらっしゃいでござる」
稽古に行く彼女の背を見送って剣心は頬を染めたままふにゃりと笑った。
「こうしちゃいられないでござるな」
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