御礼
□君の名を
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彼女の気配が真近までくるとさり気なく立ち上がって振り返る。
「〜〜〜っ!!」
そこで見たのは俯き気味にはらはらと涙を流しながら歩く彼女。
初めて見たその容姿は誰もが綺麗だと賞賛するだろうモノだった。
透ける様な肌の白さと可愛らしい小振りな鼻、肌の白さを際立たせる紅い唇は薄く今はキュッと引き結ばれている。
伏し目がちな所為か、頬には長い睫毛が影をつくっていた。
想像より綺麗だったその容姿に思わず顔が赤くなる。
だが今はそれよりも彼女の涙の方が気がかりだった。
「あの…、どうかしたのでござるか…?」
無意識に掛けてしまった言葉に驚いたのは拙者だけでは勿論無く、彼女も驚きパッと顔を上げてその濡れた瞳に拙者を映した。
「…ぁ……何でもないんです」
ペコ、と頭を下げて通り過ぎようとした彼女に自然と眉が下がり視線も地面へと落ちてしまう。
そりゃそうだ。
毎日すれ違っていると認識しているのだって拙者だけかもしれないし、彼女にとっては拙者などその他大勢の一人にすぎないのだろう…。
通り過ぎる時、ゴシゴシと目元を拭った彼女が振り返ってニコリと笑った。
「いつも掃除してますよね。御苦労様です」
「え、あ!はい、でござる…」
思いがけ無い声掛けに慌てて顔を上げて返すと小さく手を振った彼女に口を開けたままポケッ、と手を振りかえしてその背を見送った。
「〜〜〜〜〜っっ!!」
きっと今、年甲斐も無く耳まで赤いのだろう。
拙者を知っていてくれた。
その他大勢から一歩だけ抜けれた気がして胸が甘く疼く。
出来れば明日は君の名を…。
end