御礼
□女の闘い舞台裏
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いざ東京に来て手紙に書かれた住所に着いてみれば、あれ?女の一人暮らしじゃなかったっけ?と思う程一人の少女の他に男の子と青年が一人づつ。
居間に通されて主人の帰りを待っていれば刺さる視線に己の勘が当たったと内心苦い顔をした。
「(この子、剣心が好きなのね…)」
だからと言って私だってどうぞと渡せる程度の気持ちでもない。
どうしたものかと思案している間に聞こえたのは愛しい人の声。
勝手に弾む胸を抑えるなんて出来なくて、近づく足音に其方に体を向ければ指を付いて頭を垂れた。
「お久しぶりにございます。お変わり無いようでなにより…」
「りの!?」
驚きながらも何処か歓喜を滲ませたその声に顔を上げれば久しぶりに見た私を愛おしむその瞳に胸がきゅう、と締め付けられた。
私の事は誰も知らなかったのか、妻だと言えば三人共驚き薫と言う少女に限っては衝撃が強すぎたのか、そのまま意識を手放してしまった。
「薫さん大丈夫かしら…」
「どうでござろう、原因が今ひとつわからんのだが…」
その原因、あなたですよ。とは言えず苦笑いで遣り過して夕餉の仕度を進めた。
いつもは剣心が作っていたらしいけど…。
男性に厨に立たせるなど、言語道断だわ!
煮物にお浸し、汁物、焼き魚、どれも私が剣心に教えたモノばかり。
小器用な剣心は直ぐに覚えてしまったけれど、確かに二人で厨に立った時は楽しかった。
でもそれは飽く迄手伝いの範囲であって、全面的に私が剣心に厨を任せる事は無かった。
「そう言えばりの、宿は取ってあるのか?」
今は私が厨を占拠しているからか、手伝いをさせて貰えない事を知ってか後ろで手持ち無沙汰にしていた剣心がそう言えばと首を傾げた。
「もしまだなら泊めて貰うといい…」
「宿ならもう浅草に取ってありますから、これを終えたら私はお暇しますね」
飽く迄も自然に。久しぶりに会えたとしても、夜まで側にいる気は無いと遠回しに伝えて。
そうすれば…
「折角会いに来てくれたのに、拙者を放っておくつもりでござるか」
ほら、食いついた。
後ろから回された腕に背に感じる温もり。
代謝がいいからか、人より高く感じるその体温に無意識に頬が緩む。
「放っておくだなんて…。いつも私を放っておくのはあなたでしょう?」
「………すまぬ」
一瞬、腕の拘束が緩んで次いだ言葉に再びぎゅっと抱きしめられる。
「ふふ、冗談です。分かっていて一緒になったんですから…。それより今日は帰ります。薫さんも心配だし、着いててあげて?」
控え目な女のフリをして、ほんの少しだけ剣心を突き放す。声には寂しいと滲ませて。
引き際を誤っては駄目。でなければ彼は本当に薫さんに着いてしまうから。
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