物語りの終は
□五幕
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一方、その頃りのは馬車に乗っていた。
向かい合うは陸軍の頂点に立つ山県有朋。
何故この二人が共にいるのかは神谷道場の家主でもある薫の知らない仕事の為だった。
「報告は以上です。どうやら時間はあまり有りませんよ、山県さん…」
「……分かった、大久保卿にも話しを通して今後を話し合おう。その時にはまた頼む」
「はい」
「それから緋村…、抜刀斎の事だが」
「それは私には答えられません」
抜刀斎の話になるとりのはぴしゃりと跳ね除けた。
こうなってはどんなに情報を掴んでいたとしても口を割らないのを知っている山県は今は時期ではないのかと早々に諦めて話題を変えた。
「そう言えば探し人は見つかったのか?」
「いえ、それがまだ…」
山県の疑問には苦笑いで返してその場を濁した。
昔、話の流れでりのにずっと探している人がいると知ったのは何も山県一人だけではないが、他に知る人は殆どが他界している。それに聞かれても探す事すら止めようとしているりのからすれば何と返せばいいのか困るところだった。
「山県さん、私も今のままでいいとは思いません。いつかはこの仕事も辞めるでしょう。明治に生きる為に」
「 藤咲…。お前なら陸軍、もしくは警視庁の幹部なる事も簡単な筈だ。それにお前を知る維新志士も待っているのだぞ?」
「…女がでしゃばって良い事ありませんよ。ああ、ここで降ろして下さい。後は歩いて…」
「……ここで?流石に遠いんじゃ…」
「いえ、いいんです。あまり近付いて貴方と居るのを見られるのは不味いですから」
暗に関係性や仕事を知られたくないとほのめかせば馬車はそのまま速度を落として裏路地に停車した。
「ではまた何かあれば報告します」
「ああ」
ゆっくりと馬車を降りて山県に一声掛けたりのは小さく頭を下げると表通りに出て人混みに紛れて行った。
「君も幕末にとらわれたままなのか…。だが抜け出そうと藻掻いている」
小さく吐き出した山県の言葉は誰に聞かれる事もなく消えていった。
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