偶然は必然に奇跡を起こす(仮完)
□星霜回帰
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その日剣心は久しぶりの晴天だからと朝早くから薬を売りに行った。
一人残った私は、午後から村の同年代から少し上の人達の集まりに呼ばれていて、新しく村に来た人に会いに行ってみようと言ってくれた。
誘われた事が嬉しくて、なんだか仲間入り出来た様な、友達が増えた様な…。ちゃんと村に馴染めていると感じられた。
行きは皆で楽しく話しながら、最近流行っている反物だとか、髪飾りだとか、化粧の話、果ては恋人や旦那の事まで…。
ずっと、私がしてみたかった、普通の女の子同士の会話に、剣心との事をからかわれながらも、胸が弾んだ。
家とは反対にある村の外れの一軒家。夫婦で越してくる予定だったけど、先に奥さんが来てると言っていた。
なんでも旦那さんは仕事の都合で遅れて越してくるとか…。
目当ての人は、庭に居て声を掛けた一人に振り向いた。
「う…そ………」
見覚えのある顔。
薄紫のショールこそないモノの、淡い白っぽい色の小袖に、黒く艶やかな長い髪…。
ニコリともしない無愛想な顔だけど、綺麗な顔立ち…。
「とも……え、さん…」
小さな私の呟きは、皆には聞こえていなくて…。ガタガタと震える体と、流れる冷汗。
居る筈ない…、彼女は亡くなっているのだから…。ただ、似てるだけだと言い聞かせても、体も思考も言う事を聞いてくれなくて…。
「やっ…!りのちゃん凄い顔色!!どうしたの?何処か具合悪い?」
「え?あ、本当!ちょっと大丈夫!?」
気付いた一人に皆が振り返って心配してくれるのが嬉しい筈なのに、体は震え続けた。
「ごめ…、なんか急に…」
「帰ろう、送ってくから。皆、先に帰るね!」
「気を付けてね、りのちゃん、ゆっくり休むんだよ」
「ありがとう…」
何とか笑顔を作って返しても、皆の心配そうな表情は晴れる事は無くて…。
何度もごめんと謝りながら帰ろうとした時だった。
「休んで、いかれますか?」
上品な声に一斉に彼女を見た。
今の私を歩かせるのもどうかと、休ませて貰いなと口々に言ってくれる皆が、今は困る。
事情を知らない皆を恨むなんて出来ないから、結局押し切られる形で休ませて貰う事になってしまった。
「私、旦那呼んで来てあげるね!もしかしたら帰ってるかもだし」
「待っ…」
剣心なら連れて帰れるだろうと、一人が走り出したのを、止める間も無く行ってしまった。
「どうぞ、こちらへ」
中へと案内してくれる彼女は、どうみても…。
ここに剣心が迎えにくればどうなるのか目に見えている。
考えなくても、解る…。
きっと、剣心は彼女を選ぶ。もしかしたら、似ているだけだといつも通りかもしれないけれど…。
ほんの僅かな望みの後者に、縋ってしまいたくなる。
通された居間で座らせて貰った。
唐突な終わりを予感させる出会いに、覚悟を決めなければならないのかと、これまで過ごした剣心との思い出が頭を駆け巡る。
どうして…。巴さん、貴女が私を呼んだのに、どうしてこんな…。