偶然は必然に奇跡を起こす(仮完)

□懐包終夏焉
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風が冷たくなり始めた、夏の終わり。
彼岸が過ぎれば一気に秋めいて寒くなるとりのが顔を顰めた。

日中はまだ暑い日もあって、拙者は冬になる前に、一冬越せる分…、なるべく多くの薬草を取りに出る事が多くなった。

りのは相変わらず村の女性達に色々教わったり、庭の手入れに余念が無い。
なんでも理想の庭があるだとか。
それに冬に備えて干物〈かんぶつ〉を作ったりしている。
りのの居た時代では冬だろうが何でも手に入ったと言っていたのに、この時代に上手く適応しているし、意外と家庭的な面もある…。

元々りのの作る飯は美味かったが、初めの印象のせいかどうも世間知らずな所がある様に感じたが、本人曰く田舎育ちだから人付き合いなどの常識は昔から母親に教わっていたらしい。

人付き合いの苦手な拙者には、頼りになる存在だ。
この村の人達と早く打ち解けたのもりののお陰だと思っている。

すぐに人の顔色を窺ってしまう癖が功を奏したと苦笑いしていたが拙者からすればりのの言う短所も長所だ。

「ただいまでござる」

朝早くから山に入って戻ったのは昼過ぎ。
庭先にいるりのに声を掛けると顔を上げてパッと微笑った。

「おかえりなさい!」

玄関には入らずにそのまま縁側に行くと薬草を乾燥させる為の道具を一式出しておいてくれたらしい。

「りのは気が効くでござるな…」

土いじりをしていたりのが手を洗って茶の用意に行っていたのか拙者の声が聞こえ辛かったらしく、何?と居間からヒョイと顔を出した。

「疲れたでしょう。あ、今日お婆ちゃん家の隣の奥さんにカステラを頂いたの。剣心好きだったよね」

盆に乗せられた急須に湯呑、拙者の好きなかすていら。

背負い籠を端に置いて井戸で手を洗うと縁側のりのの隣に座る。
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