偶然は必然に奇跡を起こす(仮完)

□蝉時雨
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京都から帰ると普段と変わらない日常が始まった。

剣心は薬草を取りに山へ入る事もあるし、薬を売りに他の村に行く事もある。
家で仕込みをしているコトもあって、そんな時は時折、私にちょっかいを出しては巫山戯合ってまた互いの仕事に戻る。


今日は家で仕込みをしている剣心に、ずっと渡そうと思っていたモノを差し出した。

「おろ…着物、でござるか?」

たとう紙に包まれたそれを首を傾げて見ている剣心に、紙を開いて中身を出した。

「…私が縫ったんだけど…、どうかな」

「拙者に?」

「そう、東京にいた時に買った反物で、村のお婆ちゃんに教わりながら作ったの」

着流しと、揃いの羽織り。

「………………」

受け取った剣心は、ジッとそれを見ていて、期待していた様な大袈裟な反応は無かった。

気に入らなかっただろうか…。
藍染めのそれは、剣心の緋色の髪が映えると思っていたけれど…。

「ご、ごめん…!迷惑だよね!別に着て欲しいとかじゃないの、だから気にしな…」

「拙者に、着て欲しくは無いでござるか…?」

言葉を遮りそう言った剣心に、俯いてしまっていた頭を上げる。
怖くて反応を見れず、目を背けていた剣心の顔は…、随分嬉しそうで。
早とちりした自分を恥じながら首を振る。

「着て…欲しい…」

「有難く頂戴致す…。時にりの、拙者からも渡したいモノが…」

そういって差し出された箱に今度は私が首を傾げた。
受け取って、剣心を見てもニコニコとするばかりで何も言わない。

一体コレは何なのか…。

掌に乗る箱を開けて見て、思考も体も固まった。

こ、これは…。

「もう少し、生活が落ち着いたら…」

固まった私から箱を取り上げて、中身を取り出すと私の手を取って…。
左手の薬指。

「剣心…これ…」

「結婚、してくれ」

普通、言ってから…、返事を貰ってから着けるものじゃ…とか、それじゃ、断られない事前提じゃ…とか、私の頭は余計な事ばかり考えて、肝心の言葉は出てこない。

代わりに出てきたのは、涙と嗚咽。
こんなにも確かに、未来を約束してはいなかった。
不思議とそれに不安は無かったけれど、こうして形にしてくれるその誠意に、この人で良かったと思う。

「剣心っ!好きぃ…」

泣き崩れた私を抱き締めて、緩やかに撫でられる背中が心地良い。
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