偶然は必然に奇跡を起こす(仮完)

□決断の夜
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「何をしに来た」

相楽さん、弥彦君、薫さん、恵さんの来訪と共に訪れた人物に剣心さんの声音が固くなる。

鋭い眼つきはここ暫く見る事のなかったもので…。
睨まれた相手はそれを気にする風でも無く庭先に立つ。

「斎藤…」

どうやら相楽さん達をつけたらしい。

対峙した二人に、というよりは斎藤サンに話し合う余地はなさそうで…。
不殺を誓う剣心さんが気に入らないらしい。
私の知らない幕末の、しかも男同士の話となればどこまで口出ししていいのかも解らずに、ただ黙って剣心さんの一歩後ろで様子を見ているしか出来なかった。
彼が傷つくのだけは嫌なのに…。

刀を抜いた斎藤サンに、不安が募る。
刃衛の時の闘いで、彼が強いのはわかっている。けれどそれは抜刀斎という昔に戻っての事。

剣心さんの過去を聞いた今、不殺を誓う意味を知ればそれは得策とは思えない。
どんなに愛を語っても、過去を引き合いに出されてしまえば、私に出来る事などないのかも知れない…。

かも、知れないけれど!

顔を上げて、闘う二人を真っ直ぐに見つめて。
口出し出来ず歯痒い思いをする相楽さん、劣勢に見える剣心さんに悔しく思う弥彦君、抜刀斎に戻ってしまう、と涙する薫さん、傷付く剣心さんを見て辛そうな恵さん。

私は…、彼の全てを受け入れると決めたのだ。ならば、先ずは剣心さんが抜刀斎に完全に立ち戻らない事を信じて、この先何かあって、抜刀斎に立ち戻ってしまう可能性があるのだとしたら、それを止める要になりたい。
例え抜刀斎になっても受け入れる覚悟はある。
けど、それは剣心さんが許さない事だろうから…。
不殺を誓った彼に誓う。
彼の心を護ると……。

涙が零れそうなのも、叫びそうなのも、縋りつきそうなのも、立っていられなくて崩れてしまいそうなのも、全てを我慢して、機上に振舞って、彼が安心して私の元に戻れる様に…。

強く強く両手を握り締めた。
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