偶然は必然に奇跡を起こす(仮完)

□光溢れる路の先に
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二人で生活を始めてまだほんの少し。
りのと二人、静かな山間に居を構え慎ましくも平穏で静かな生活を手に入れた。
今は以前の様に薬師として生計をたてている。

が、いかんせんまだ始めたばかりで生活は苦しい。
りのには居を構える際に要り用のモノを揃えたりと金子を出させてしまったから普段の生活ではなるべく出さないでいいと言った。
それでも足りない時は少し足して貰って食の足しにしているが…。

「りの、ただいま」

薬草を取りに出た山から帰ると庭先ではりのが何やらやっている。
何事かと後ろから覗き込むと花を植えていた。

「おかえりなさい、剣心さん」

「花を植えたのか」

「うん、夏にね、綺麗な花が咲くって…村のお婆ちゃんがくれたの」

ここから少し離れた場所に集落がある。
老人の多い所だが若い男女もそれなりにいて豪農の家が建ち並ぶ。
生活に余裕があるからか、誰もが優しく自分達を受け入れてくれた。
特にりのはお年寄りに気に入られている。
確かに気も効くし礼儀正しい。何よりも、気に入られている原因はお年寄りの知恵に一々大袈裟な程感動するからだろう。
古いモノが失くなっていくのを淋しく感じる年寄りが、そんなりのを気に入らない筈が無い。

「良かったでござるな」

頭を撫ぜて背負籠を置きに縁側に向かうと後ろからトコトコ着いてくるのに思わず笑みが漏れる。

変な所で子供っぽい。
足元できゃっきゃと纏わり付く子供の様に追い掛けて来て籠の中を覗く。

「凄いね、私には何の葉っぱかも解らないのに…」

「剣術の修行をしていた時は山で暮らしていたからな、その時に師匠に教わったんだ」

辛い事も多かったけれど、今はただ懐かしい。

「剣心さんの師匠か…あ!明日少し出掛けて来ます、お花を頂いたお婆ちゃんが縫い物で解らない所を教えてくれるって」

「解った。拙者は明日は家にいる故ゆっくり教わってくるといいでござるよ」

「ありがとうございます」

ニコッと笑ったりのはまた庭先に出て先程植えた花に水を与えている。
ここに来てりのは東京にいた頃より格段に笑う様になった。
居を構えたばかりの頃、村の人に言われた事が原因だ。

『こんなに沢山…、すいません、何も返せるモノがなくて……、せめてお金だけでも受け取って下さい』

村の人に沢山の野菜を貰ったりのはまだ越して来たばかりで何もないからせめてと金子を渡そうとした。
けれど、返ってきたのは…

『金子はいくらあっても腐らない。大事に取っておきなさい』

『……………ありがとう、ございます…』

『ああ、うん。お礼はそっちのがいい』

金子を目の前にしても受け取らず、お礼は言葉で十分だと言った村の人に、人に懐くどころか知らない人の前で笑う事のないりのが微笑った。
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