時を越えて(完)

□じゅう と きゅう
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蝉の声に埋め尽くされる夏の日。


「…なんで、どうしてこんなコトに………」

「(………俺が目を覚ましたのは)」


俺が目を覚ましたのは全てが済んだ後。
小国診療所の高床の上だった。
だから俺はりのの死に様は見ていない。
俺が見たのは清められた白装束のりのーーー。
まるで別人の様だった。
だからか、埋葬が済んだ今でも、りのが死んだという実感が余り湧かない…。
そして剣心…。
剣心は皆が目を離した一瞬の内に姿を消したという。
左之助が舎弟連中に全力で捜索に当たらせているものの未だ全く行方知れず…。
いったい何処へ行ったのか、神谷道場かりのの家より他に帰る場所は無いはずなのに…。
りのを殺した男、雪代縁は鈍色の煙の中、同志・外印と共に逃亡ーーー。
斎藤が倒した鯨波は半分心神喪失状態で、話もままならず。
捕縛した残り三人からアジトを割り出し、急襲したもののすでにも抜けのカラ…。
結局…
俺がのんびり気を失っている間に何もかもがーーー。




それは弥彦が、悔しさに拳を握り締めた時だった。




「左之さん、居ましたぜ!緋村のダンナ見つけました!」

飛び込んで来た左之助の舎弟に誰もが顔を上げて振り返る。

「何処だ、剣心はどこに!!」

「せめて傷の手当てだけでも」

「ちょっと待って下せェ、女・子供はやめた方がいいって。なんせ場所はあの“落人群”なんスから」





幕末から明治へ…
時代の変革は同時に人の人生
そのものにも変革をもたらす

そして全ての人が
新しい時代に祝福され
迎えられるとは限らない

時代に背かれた者
そして時代に背いた者

社会に弾かれ世間に疎まれ
やがて彼らは
自然と身を寄せ合う

埒外の集落
“落人群”

ここは人生を捨てた者達の
最終領域
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