時を越えて(完)
□ろく
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五月十四日ーーーーー
りのは自分の家から神谷道場までの道を歩いていた。
今日は剣心が大久保に返事をする日…
あれから一週間、りのは京都へ行く旅支度の為、お菊に暫く来れない旨を告げて 出来る限りの仕事を終わらせ、荷物を纏めていた。
その間に何度か剣心達ともあった。
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「りのが龍桜だったって本当…?」
薫は困惑して剣心に聞くが返って来たのは肯定だった。
「ああ…はじめは共に暗殺稼業を請負っていたが、拙者が遊撃剣士となった後は志々雄と暗躍していたと聞く。三年弱と言った所か?」
「その後は私も遊撃剣士になったからね」
「そうだったんだ…」
「がっかりした?私が龍桜で…それに私は不殺を誓ってもいないしね」
何処か自嘲を滲ませたりのの言い方に薫はハッとして俯きかけた顔を上げたを。
「違うの!私何も気付いてあげられなかったから…。りのはいつも優しくて穏やかだったから、勝手にそういう人なんだって思い込んでて…」
辛そうに、申し訳なさそうに眉を下げた薫にりのはフッと表情を和らげた。
「いや、何も言わなかったのは私。薫が気にする事じゃない」
「しっかし龍桜っていやぁ、幻とまで言われた人斬りだろ?まさか女だった上にこんなトコにいるたぁなぁ…」
左之助の言葉には薫と弥彦も頷いた。
「俺そんな凄いヤツに稽古つけてもらってたのか…」
弥彦は感動したのか自分の手を見ながら表情を明るくした。
「まあ、どっちにしてもお前等を京都へはいかせねェけどな。どんなに強くたってあいつ等の勝手でんな危ねェ場所に行かせられっか」
フンッ、と息巻く左之助に薫も そうよ!とつられて息巻く。
幕末の頃は、途に迷ったりもした。これでいいのかと…
でも、今いる未来〈ここ〉は暖かくて 間違いじゃなかったと思える。
あの頃憧れた場所はかけがえのないものとなった。
その場所を守りたい…。
「……行くよ、京都に」
「「「え!?」」」
ポツリと呟いたりのに三人は驚き、剣心は先日感じた焦燥がぶり返し、自然と眉間に皺が寄る。
「今行かせねェッつったろ!?」
「そうよ!あの人達の言いなりになんてっ」
「違うよ、薫…。私は守りたいものがあるんだ、だから京都へは私一人で行く」
だったら俺も!と言った弥彦に 邪魔なだけ!と薫が言い喧嘩になった二人を余所に剣心は一人で行くと言ったりのに言い知れぬ感情に支配された。
が、先日から疑問に思っていた事の解決が先と思い留まった。
「志々雄とはどうゆう関係でござるか…」
「ただの同志、と言っても納得しなそうだなぁ…」
困った、と頭を掻きながらりのはポツポツと話し出した。
「剣心と離れた後に飯塚に連れてこられたのが真実だったんだ。態度はデカイし嫌なヤツだった、けど…いい男だったよ」
ニコリと笑ったりのに剣心は先程とは別の焦燥にも似た感情に顔を歪める。
「功名心は確かに高かった。けど自分の中の信念は貫いてた。幹部に名前を知らしめるのだって 出世したいと思うのであれば普通だし、何よりも自分が強いと認めた相手にはちゃんと敬意を払っていたよ」
「だからいい男?」
何時の間にか喧嘩を終えた弥彦が志々雄に対する評価が気に入らないとばかりに言う。
「それだけじゃないけどね、腐った世の中であれ程自分の信念を貫けるのも並じゃ出来ないからね」
ふーん、と面白くなさそうに返した弥彦の頭を撫でる。
「弥彦もいい男だよ」
子供扱い!と怒ったが、不意に言われた言葉とりのの表情に顔を赤くして目を反らした。