時を越えて(完)

□さん
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時は明治十一年ーーー




この日剣心は今朝方見た夢を思い出していた。
幕末の時に出会い、愛し別れた人を思い出して 何時の間にか 洗濯していた手は止まっていた。


季節はもうすぐ春ーーー

あの人の

桜の香で満ちる。


「何処に、居るのでござろう…」

あれから十年、全国を流れ、ここまで来た…。

空を見上げて小さく嘆息すると 洗濯を再開した。





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志士を抜けた後、
ある人の元へ向かい剣の理と 剣術の修行を重ね、六年が過ぎた。




そうして得た理を胸に、約五年の流浪を経て、






東京へーーーー。
















「やっぱり東京は人が凄いなぁ!」




一人の剣客が 並ぶ店先をひやかしながら歩く。





今日の朝、二度目の東京入りをした。

一度目は まだ桂が生きていた頃に…。


西南戦争の時に病没したと聞いた桂の墓前に花を添えて、此れ迄の事を報告した。

私の全てを知る人は もう誰も この世界にはいない。






あちこち回ってはなるべくこの世界の人達と関わりながら剣心を探して また流れてきた。

この東京にいる確証も無い。

探して見つからなければ、また流れるだけ…。


けれど、剣心が没したのは東京だと、もううろ覚えとなってしまった歴史書に書いてあったのをぼんやりと覚えている。



歩きに歩って時刻は昼ーー


「お腹空いた…」


ぐぅ、と空腹を知らせるお腹を抑えたりのはキョロキョロと店を探すと、京都と似た店を見つけた。


牛鍋!


「京都のは白べこだったけど、東京は赤べこ…。よし、此処にしよう!」


意気揚々と中に入ると店員が座席に案内してくれた。


白べこと味はやっぱり違うのかな・・

そんな事を考えながら、お品書きを見ていると 何やら隣が騒がしい。
(うるさいなぁ…)


昔はこんな事思わなかった。
流浪を始めてから、色んな人と関わる事が多くなっていったけれど、案外生きる事に必死で、周りが見えなかったのか、
それとも関わってきたからこそ、色んな感情が芽生えたのか…
この十年で今まで知らなかった自分を知った。

多分…あの世界で母が全てだったからか、女の人に弱い。意外と子供が好き、面白い事も楽しい事も大好き、思い込みが激しいのは直したい所だが…



ぼんやり考えていると
その時聞こえた名前に お品書きを持った手が震えた。



「ちょっと剣心も何とか言ってよ!」



(え……)
カタカタ震える手を見つめていたが、ゆっくりと顔をあげて 、




通路を挟んだ反対側…







(まさか)






「剣…心…」



あぁ、声迄震えてる・・・




思いの外大きかった声は、通路を渡り その先へと飛んだ。




顔を上げたその人はーーー






「ーーーーーーっ!?」




あ・・・・あぁ、どうしよう、桂が会わせてくれたの?

いやだ、さっきの今だよ?


混乱する頭は意味の分からない事を考え現実逃避を図る。



立ち上がり 慌てて駆け寄る貴方を呆然と見てた。
それはまるでコマ送りの様に映り酷くゆっくりとした動きに感じる。


抱き締められて、舞い戻る時間に 鼓動が早鐘を打ち始めた…。



「剣心…?…本当…に?」

「りの…!会いたかった…っ!!」


耳元で囁かれた言葉に、名前に、思わず背中にしがみついてしまった。


会いたかった、私だって
会いたかった!
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