時を越えて(完)

□にい
1ページ/14ページ

あれから数ヶ月経った。

始めは無愛想な緋村の手伝いをしながら 自分なりにこの時代の流れを見た 。

けれどその内容は知れば知る程、下らない様に思えた。

佐幕だ攘夷だ。
私の生きた時代に比べれば、子供の陣地取りと変わらない。

今を生きる人にとっては大切な事なのは理解出来る。

けれど、無闇な殺生は 生きる為と違う。新時代は屍の上に成り立つのか…

弱肉強食の世界にいた時とは違う。
無闇に人を殺めたい訳じゃない。
殺さずにどうにか出来ないのか…。

でも今を捨てれば居場所はなくなるかもしれない。

相反した思い…。

ごめんなさい
ごめんなさいーーー・・・

それでも生きたいんだ。

護られた命を全うする為に、

あの時一度諦めてしまった命を完遂させる為に…。




キンッーーー



短く金属のぶつかる音に顔を上げる。


「考え事とはいい度胸だな 」

「 斎藤一」

「ふん こうして会うのは初めてだったな。龍桜〈りゅうおう〉」

裏稼業として働いている蓮が京都見廻組とかち合う事は極稀だが、最近何故かよく会う。

「龍桜?何其れ」

「知らんのか 長く靡く髪はまるで龍の如く、纏う香りは狂い咲きの桜と言われた異名」

「なら切るよ」

「は?」

ガッと鍔迫り合いから斎藤を押しやり離れると蓮は徐に髪を掴み結わえた所に刀を当てた。

「待て、貴様正気か?」

「匂いは香水をつけてる訳でもないんでね、どうする事も出来ないけれど、 髪の一つや二つ 何を拘る必要がある。その変な異名のが髪を切るより よっぽど堪える」

無表情に見つめる蓮に溜息を吐くと斎藤は構えを解いて蓮の刀を掴む手を握り降ろさせた。

「拘る必要はあるだろう。仮にもお前はーーー…」

「蓮!!」

声と同時に斎藤が咄嗟に構えた刀で攻撃を受け流すと蓮の手は斎藤から離れていた。

「緋村さん…」

「怪我はないか?」

「うん、大丈夫」

緋村は蓮を庇い前に出ると斎藤を睨み付けた。



ピィィィーーーーー


遠くで新撰組の呼子が聞こえると斎藤は舌打ちをして蓮から緋村に視線を向けた。

「悪いが今日は引かせて貰う」

斬り合いになる前にそう言うと緋村は蓮を抱え走り出した。






暫く町中を走り斎藤が追って来ない事を確認すると蓮を降ろし睨み付ける。


「何故見廻組と…何をしていた」

裏の暗殺を任されている以上 見廻組との対峙は無いに等しいのに…
言外に含む言葉をしれっと流し蓮は先を進む。

「髪を切ろうと」

「あの状況でやる事じゃないだろう!?」

蓮は押し黙ると自分の髪を掴んで溜息を吐いた。

「龍桜と言われたんです。変な異名をつけられて腹が立ったから…」

何処となく不機嫌そうにする蓮の稀な子供っぽい仕草に緋村は呆れながらも何処かホッとした様子で溜息を吐くとポンポンと頭を撫でた。

「それは俺も聞いた事がある。志士名は強い者にしかつかん。諦めろ。髪を切っても別の名が付くか、もしくは何も変わらない」


帰りながら志士名の話を聞いたが納得は出来ない。

ブツブツと文句を言いながら小萩屋に帰ると 桂から呼び出しが掛かっているとの伝言を受けて 緋村と別れ部屋に向かったが、緋村はその後姿をジッと見ていた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ