短編〜中編
□郷愁哀歌
1ページ/13ページ
ずっと、好きな人がいる…。
生まれた頃から一緒で、背中を追いかけて維新志士になった。
けど、その頃には彼はもう人生の伴侶を見つけていて、私は諦めざるを得なかった。
それでも想い続けて、誰に悟られる事なく日々を過ごす中で、大切な人を失くした彼の側にいたのも私だった…。
あれから十年…。
一度別れた道は、再び重なって、やっと伝えられた想いと、重ねる事の出来た心に喜んだのも束の間…。
彼は今日、私ではない別の女性と、二度目の祝言を挙げた…。
幸せそうに笑う彼女と、その隣に佇む彼。
呼ばれた席に顔を出せる筈もなく、独り遠くからそれを見ていた…。
何故、その席に呼ばれたのかすら解らない。
そんなに私が嫌いだったのか。
そんなに私を傷つけたかったのか。
頬を撫でる温かさと、それを拭う風の冷たさに目を閉じて。
もう、彼の背中を追いかける事は無いと、想いを断ち切って、彼に背を向けた。
「本当に、これでいいのか…」
擦れ違った蒼紫に、言われた言葉に顔を歪めた。
「いい…。剣心が、これでいいと思って選んだのなら、私はそれでいい…」
私と、剣心が恋仲だったのは周知の事実だった…。
それでも彼は、彼女を…。神谷薫を選んだ。
私を心配してくれた周りの人は、剣心が浮気していた事に憤慨し、慰めてくれた。
避難は、全て剣心と神谷薫に向けられて。
でも…、どうしてだろう。彼の事も、彼女の事も恨む気にはなれなくて。
疲れて、しまったのかもしれない。心を揺り動かす事に。
怒りも、動揺も、湧かなかった。
ただそこにあったのは、虚しさだけだった…。
「これから、どうするつもりだ」
「さあ…。どうしようかな。でも、もう誰にも会わない。死んだとでも伝えて、最期の意趣返しって事で」
笑ってはみたけれど、弱々しくなってしまったのはご愛嬌だ。
「じゃあね」
涙を拭いて、手を振った。