短編〜中編

□媚薬
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いつもニコニコしてるだけ。
我儘を言えば少し困った顔をして、それでも笑ってる。

恋仲になって半年、手も繋いだし、口付けもした。
けど、その先はまだ。

大事にしてくれてるんだと言えば聞こえはいいけれど、興味が無いのか、私に魅力がないのか…。

神谷道場の縁側で一人溜息を吐いた。
薫と弥彦は出稽古で居ない。
今日は左之助も遊びに来ていないし、剣心も買い物に行っていて一人きり…。

「つまんない…」

いや、つまんない事が悩みじゃないんだけど…。
先日左之助に言われた事を思い出す。

『なんか、お前ェ達所帯染みてるよな』

その一言に、衝撃を受けた。
確かにずっと一緒にはいるけれど、まだ手を繋いで数回口付けただけの関係なのに、所帯染みてるとは…。

だから剣心がその気にならないのか!と思いもしたが、だからと言ってどうしていいのかも解らない。

掃除も洗濯も終わって、ぼーっとしていると元凶となる一言を放った左之助が、裏木戸から顔を出した。

「よお、 りの!一人か?」

「左之助…。うん、皆出てる」

お茶でも煎れて上げよう、と腰を上げると「まあまあ」と再びその場に座らされた。

「何?」

ニヤニヤ笑う左之助に、思い切り眉根を寄せた。
嫌な予感しかしない…。

「まあそう警戒すんなってェ、ほら、いいモンやるからよ」

左之助の差し出した薬の様なモノに更なる疑心が湧いて出る。
罷り間違っても阿片などで無いのは解る。
が、じゃあ何だ。

「ナニコレ…」

手に乗せられたそれに視線を落とした所で左之助はあり得ない単語を吐き出した。

「何って、アレだよアレ、媚薬ッつーモンだ」

「はあ、媚薬…。媚薬ぅ!?ちょっ、こんなのどうしろって言うのよ!」

「ああ?剣心と進展がねェって落ち込んでたのは りのだろーが。飲み物にでも混ぜればわかんねェからよ」

わかんねェって…、使った事あるのか…。

渡されたそれに、どうしていいのか解らずに、結局受け取ってしまった。

その後直ぐに帰って来た剣心に、左之助は何やら用があるんだと剣心を連れて部屋に篭ってしまった。

まあそれはいいとして…。手の中の小さな包みに項垂れた。
まさかこんなモノまで用意されてしまう程落ち込んで見えたのか、はたまた欲求不満に見えたのか…。

どちらにしても微妙だ。
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