短編〜中編
□想う心
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流浪の旅に出て何年が過ぎたのか。
今年で明治も七年ーーー。
まだ、七年…。
考え事をしながら歩いていた所為か、近道だろうと足を踏み入れた森は、思ったよりも深く出口が見えない。
人に道を尋ねるにもこんな山奥に人がいる筈もなく、いるとすれば樵くらいのものだろう…。
「早まったか…」
立ち止まり辺りを見渡して溜息を吐いた。
行く宛てなど最初から無いので迷子、とも違う。
普段なら気にする事も無いが、いかんせん寒い。
近くの切株に腰を降ろし、チラチラと降りだした雪に空を見上げ、どうりで寒い筈だと肩を竦めて手を擦り合わせ独り言ちた。
袴に少しの荷物のみ、この軽装で雪はキツイ…。
「どうしたものか…」
再び地に視線を落とし二度目の溜息を零した時。
「あの…」
背後から掛けられた声に咄嗟にその場に立って振り向き様に抜刀し掛けた。
が、相手は何故こんな場所に、と思う程に女性らしい女性だった。
「……ぁ………」
上手く言葉が出てこない…。
人里離れた森の中に、こんな天気であるにも関わらず不思議そうに首を傾げて佇む女性に狐にでも摘ままれたのかと思った。
「お侍様、先を急がれるのでしたら直ぐにでも。雪も降り始めてしまったし、この様子では根雪になるでしょうから」
ぺこりと頭を下げて去ろうとした女性に、慌てて声を掛けた。
「あの!町はどっちに行けば…」
いいのか、分からない事に多少の恥ずかしさはあったが、折角人に会えたのだから聞かなければ困ってしまう。
しかし返って来た返事に更に困る事となった。
「それは…困りましたね。土地勘が無いのなら道をお教えしても、今から村に下りるのは難しいかと…、この辺は地元の人ですら迷うので」
女性は逡巡した後、荷物を持ち直して肩に積もり始めたゆきを払いながら「着いてきて下さい」と歩き始めた。
どうしたものかと思いながらも着いて行くより他ない。