短編〜中編

□再愛
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彼女と出会ったのは、剣の修行の途中、師である比古清十郎の元を飛び出し奇兵隊に志願した後…。

桂小五郎に維新志士・人斬りとして小萩屋に連れられて来た翌日だった。

年も近く先輩として色々話を聞くといいと言われたが、俺には必要の無い事だと思っていたし、彼女もまた執拗に構う事なく適度な距離を保っていた。

彼女を、彼から彼女として認識したのはいつだったか…。
前の妻、巴と知り合う直前、今まで彼だと思っていた人が彼女だとわかり困惑したのを覚えている。

彼の名前は 藤咲。
苗字でしか呼んでいなかった、というより苗字そのものすら殆ど呼んだ事も無かった。

女性と解り戸惑いもしたが、名前を聞いた時に言われたのは

「 りの、 藤咲 りの…。けれど名前では呼ぶな。まあ元々上の名すら呼んでないのだからそんな忠告要らないかもしれないが…」

彼女を女性としてみれば納得のいく事も多かった。
線の細い体も身長、手足、顔も同年代にしては自分より小さく明らかな発育不足だと思っていたのだから。

それからというモノ、いくら仕事とは言え女性が傷を作るのを余り良く思えなかった俺が、彼是口出しするのを何処か鬱陶しそうに、けれど…どことなく照れ臭そうに突っぱねる 藤咲を素直に可愛いと思っていた。
それが恋愛のそれかは別として。

少しだけ、お互いに近付いた様な、別々の仕事の時には帰れば互いの安否を確認し、共に仕事をすれば背を預け合い死角を補い合う様な…。
曖昧な境界線の上にはいたけれど、信頼はし合えていると思っていた…。少なくとも、俺は…。
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