短編〜中編
□糖度
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甘い、甘いーーー
拙者の好きなかすていらより
甘い。
神谷道場に居候する様になって直ぐの事だった。
拙者の他にもう二人、居候が増えた。
一人はまだ少年である十になる弥彦。
もう一人は…
「 りの殿、朝でござるよ」
襖の前で声を掛けるが中から返事は無い。
朝が弱いと言っていた彼女は宣言通り、根気良く起こさなければ起きて来ない。
本来なら同じ女子である薫殿が起こせば良いのだろうが、誰にも譲れない理由があった。
「 りの殿〜?」
ポスポスと襖を叩いて開ける意思を伝えるが、きっと彼女は夢の中で気付いていない。
そっと襖を開けて中を伺うと、目にしたモノに目を剥いた。
スパンッー
慌てて襖を閉めて口元を押さえた。
毎度の事ながら心臓に悪い…。
きっと拙者の顔は真っ赤であろう…。
寒い時期はまだ良かったものの、暑くなるにつれてそれは起こった。
そう…襖の向こうの様な光景が。
意を決してもう一度襖を開けて、ササッと中に入ると襖を閉める。
誰か(左之助辺り)に見られでもしたら大変でござる。
なるべく りの殿を見ない様にしながら壁伝いに枕元へと進む。
御庭番衆気分でござる…。
枕元へ着けば薄手の掛け布を引っ掴んでバサリと掛けた。
「ふぅ…危ない危ない。拙者もまだ二十代、女性のあられもない姿を見て何とも思わない程枯れてはござらん」
一仕事終えたとばかりに額の汗を腕で拭う仕草をしながら りの殿を見れば気持ち良さそうに眠っている。
「 りの殿、朝でござるよ。起きて」
肩を揺らして覚醒を促すと睫毛が震えて眉根が寄る。
「んぅ…、もっとぉ…」
…………………は、鼻血が…
いや、出ぬが。出そうでござる。
寝かせろ、と続くのは解っているものの…
何というか、 りの殿の眠っている時と寝起きの声は普段から想像もつかない程甘い。
甘いと言うより甘ったるい。
「…… りの殿、そろそろ起きて欲しいでござる…」
さもなくば拙者の息子が先に“起っき”してしまうでござる。
「 りの殿〜!!」
「ンん〜、ゃぁ…!けんし…ん」
拙者の手から逃げる様に寝返りを打った りの殿の身体から掛け布がずれた。