短編〜中編

□別れの後で
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『…っ…う…ぁぁあ!はぁ、はぁ、ぁ…』

魘されて悲鳴じみた声を上げてガバッと起き上がると、外は既に夜が明けていた。


寝汗が酷く不愉快で手拭いで綺麗に拭うと着替えを済ませて部屋を出る。

剣「 りの殿、おはようでござる。… りの殿?」

また…同じ夢ーーー。

『……あ、おはよ…』

ボーッとしていて反応の遅れた私に怪訝そうな、心配そうな顔をした剣心に慌てて返事を返すが思ったよりも声は小さく頼りなかった。

剣「どこか具合でも?余り顔色も良くない」

伸ばされた手が額に触れそうになるとビクリと肩が竦んでしまって気まずい…。

剣「今日はゆっくりしてるといいでござるよ」

ニコリといつもの笑みで行き場の無くなった手を私の肩にポンと掛けた剣心に、気付かれずに済んだ事と、気付いて貰えなかった落胆に、人知れず顔が歪む。

剣「薫殿、おはようでござる」

薫「おはよう!剣心。あら? りの…どこか具合悪い?顔が真っ青…」

心配だという薫の顔に無理矢理笑って首を振る。

『大丈夫、大した事はないんだ。それより左之助知らない?』

薫「大した事無い様に見えないよ!左之助はまだ長屋で寝てるんじゃない?昨日夜遅くに帰ったわよ?」

『そっか、ちょっと左之助に用があるから出掛けてくるね』

薫「その顔色で?途中で倒れでもしたら大変よ!剣心に送って貰ったら?」

剣「……………」

怖い…。

剣心のじっと私を見るその目が…。


どうして自分が、と言いたげに見つめてくるその目が。

剣心は優しい人だからそんな事言わないってわかっているけど…。

『ううん、一人で大丈夫。いってくるね』

逃げる様にその場を後にして家を出た。


神谷道場に居候するようになってどれくらいだろう。

帰る場所の無かった私を置いてくれる薫ちゃん。

何かと気に掛けてくれる優しい剣心。

何時の間にか心が惹かれていて、
想いが叶った時は嬉しくて。

どうせ叶わない想いなら、と告げた言葉に返ってきたのは困った様な、それでも恥ずかしそうに笑って抱きしめてくれた剣心の体温だった。

想いが通じて余裕が出来たのか…それから気付き始めた事がある。

剣心はいつも薫ちゃんの事を気に掛けてるし、どちらかと言えば薫ちゃんを優先している。

家主だし、気を使ってるのかと思っていたけど…。

それに、あれから特に何も変わらない。

人様の家だし遠慮なら私もしてる。

でも寄り添う事も、ほんの少し手が触れる事さえもない。

むしろ想いが通じる前の方が側にいられた気がする…。

あの時抱きしめてくれたのは、ごめんなさい、の意味だったのかもしれない。

私は狡くて、怖くて確かめる事も出来ないけれど…。

『左之助、いる?』

長屋に着いて戸を叩くと、暫くして寝ぼけた左之助が不機嫌そうに顔を出した。

左「んあ?なんだ りのか…。どうした?」

『…………』

左「…また"あの夢"見たのか?」

頭を掻きながら欠伸をしていた左之助は、私の様子が可笑しい事に気付くと真剣な顔をして中に通してくれた。

左「ここなら誰もいねェんだ、気にすんな」

ポンポンと頭を撫でた左之助は顔洗ってくる、と出て行った。

一人になるとあの夢を思い出す。

剣心に別れを告げられて、彼は薫ちゃんの手を取って私に背を向ける…。
どんなに叫んでも泣いても届かなくて。
苦しくて、辛くて、痛い…。
そのうち私は足元からグズグズと真っ暗な闇に飲み込まれていく。

まるで底なしの泥沼に沈んでいく様な…。

もがけばもがくほど深みにはまって抜け出せなくなる。

助けを求めて手を伸ばせば、
遠くで剣心と薫ちゃんが私を見て笑ってる…。
その目が怖くて…。

ああ、もう…ダメだ

そう思った所でいつも目を覚ます。

精神的なモノ、だと思う…。
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