物語りの終は
□五幕
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その日薫は不機嫌極まりなかった。
比留間兄弟が捕まり神谷活心流ニセ抜刀斎の騒ぎが収まり汚名は晴れ連日方々を駆け回ったーーーーー
が、誰一人門下生が戻ってくる事が無かったからである。
「あームカツク」
「文明開化の世でござるからね。一度離れたらそう易安と戻ってはこないでござるよ」
洗濯物を熟しながら仕方ないとばかりに言う剣心に薫は八つ当たりとも言える年齢の事で喚き散らした。
結局、剣心が三十路過ぎでも嫌な為「我儘でござるなあ」と呆れた様に言われて話はりのへと移った。
「そろそろりの姉の仕事が終わる時間よね。買物ついでに迎えに行きましょ」
「おろ、朝からいないと思えば…りの殿は何の仕事を?」
出掛ける準備をして門を閉めながら街へ向かう二人。道中の話題は専らりのの事だった。
「知らない」
「………は?」
素っ気なく答えた薫に剣心は目を丸くしてぽかんと間の抜けた顔をした。
話に聞けばこの二人、衣食住を共にして既に何年か経っている。にも関わらず薫はりのの仕事を知らないのだと言った。
「前に聞いた事があるんだけどね。はぐらかされてそれきりよ」
「……………」
そう言った薫の横顔は何処か寂しそだった。
それもそうだろう。何せ姉と慕っている人の仕事すら知らないのだから。
暫し思案した剣心はニコリと笑って薫の頭を撫ぜた。
「いつかきっと話してくれるでござるよ」
そう言って先を歩き出した剣心の背を眺めながら薫は剣心の過去もまた気になっていた。
りのも剣心も多くを語らない。言いたくない事もあるだろうと聞かない自分もいるのだが…。
その視線に気付いたのかどうなのか、振り返った剣心が苦笑いした。
「何か聞きたげな表情でござるな」
そうは言われてもじゃあ、と聞けるモノでもない。
刀が目立つと怒った薫はそのまま手分けして買物へと去って行った。
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