物語りの終は
□三幕
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「ねえ、本当に大丈夫…?ずらして貰う事も出来るしなんなら…」
「心配し過ぎよ!私なら大丈夫だから、ね」
「でも…」
明治十一年、年も明けて落ち着き始めた頃それは起こった。
居候先である道場に悪評が立ち門下生達が次々と辞めてしまったのだ。
その道場の跡取り娘である神谷薫は件の犯人を捕まえると躍起になっていて、りのはそれを止めていたが急な仕事が入りほんの二・三日神谷道場を離れなければならなかった。
その間に薫が暴走して犯人探しをしやしないかりのは気が気ではなく、冒頭の遣り取りに至る。
いくら稽古をしているからとはいえ、いくら師範代を名乗っているとはいえ相手は恐らく男で…。
しかもかの有名な人斬り抜刀斎ときた。
人斬り抜刀斎に立ち向かう少女。無謀の一言に尽きる…。
「りの姉は心配し過ぎ!さ、早く仕事行かなきゃ遅れちゃうよ?」
「本当に大丈夫?喜兵衛さん、薫を宜しく頼みますね」
「ええ、わかりました」
数ヶ月前道場の前に倒れていたのを助けた喜兵衛と言うこの男。
りのから見れば怪しい事この上ないのだが…。
薫は人の良さも合間って信用しきっている。
りのの仕事と言うのはこの男を調べる事。
誰にも言っていないが、幕末の頃は情報屋の様な事をしていたのだ。
伝手を辿れば地元を離れたここ、東京でも幾らでも欲しい情報は手に入る。
幕末の頃過ごした京都より此方に上京して来たかつての知り合いもいる。
だからこそその伝手を生かし薫に降りかかる火の粉を払おうとしているのだが…。
何分本人からその火の粉に突っ込んで行く性分なのだから薫から目が離せないのだ。
「薫、約束して頂戴?私が帰るまで大人しくしてるって…」
「あー、はいはい!分かってるってば!!」
「もう…じゃあ行ってくるね」
「いってらっしゃーい!」
手を振る薫の後ろで喜兵衛が頭を下げながらニヤリと笑った。
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