偶然は必然に奇跡を起こす(仮完)
□星霜回帰
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仕事から帰ると家の前に村の女性が居た。
「おろ…、一緒に出掛けたのでは…」
不思議に思って近付くと、気付いた女性は慌てて走り寄って来た。
「りのちゃんの旦那さん!」
「拙者まだ旦那では…」
「婚約してるなら同じでしょ!それより大変なの、りのちゃん出先で具合悪くなっちゃって…」
「っ!?りのが?今は何処に…」
驚き慌てて背負籠を縁側に放るとその女性に案内を頼んだ。
「今は先のお宅で休ませて貰ってるんだけど…、顔色なんて蒼白い通り越して紙みたいで…」
急ぎ足の女性に、一人なら走って行ける事をもどかしく思いながらも、りのの状態を聞いて益々心配になる。
薫殿の時は、青褪めた顔をしていたが、通り越して紙みたいとは…。いったいりのに何があったのか。
ここ最近は血色も良かったし、前より随分明るく笑うようにもなっていた。
それなのにどうして…。
着いた先は一軒家で、己の家とは正反対の村の外れにあった。
今日はそこに越して来た奥方に皆で会いに来たのだと言っていた。
玄関に向かうと中から四人の女性が出て来て、丁度良かったと言った。
「もう日暮れ前だし家の事もあるから先に帰ってってりのちゃんが…。本当は心配だけどついてて逆に気を使わせちゃうのも嫌だから皆で帰ろうかって」
拙者が迎えに来れば大丈夫だと言って、迎えに行ってくれた女性にも途中で鉢あったらお礼と、後でちゃんとお礼に伺う事を伝えてと言われたと言っていた。
「具合悪い癖に気を使いすぎ!りのちゃんの旦那さん、後はお願いね?」
「ああ、忝い」
じゃあ、と帰っていく女性達を見送って中に声を掛けた。
「御免!拙者緋村と申す、りのの迎えに来た!」
少しして出てきたのはりので、その後ろにも人は居たが本当に紙の様な顔色をしたりのに「失礼」とだけ言って草履を脱いで駆け寄った。
「大丈夫か!?朝までは元気だったのに…」
りのを支えて顔を覗き込むと無理矢理口角を上げたりのに眉根が寄った。
「大丈夫…、少し休めば、大丈夫。今は時間が必要なだけ…」
「りの?」
何を言っているのかと、怪訝な顔をしていると、縋る様に支えた腕に手を添えて、きゅっと着物を握るその手が震えていた。
「何が大丈夫なものか…帰ろう。挨拶が遅れて申し訳ない、りのが世話になっ……」
りのの背に手を添えて顔を覗き込むのに屈めていた体を起こして、家人であろう人に礼を言おうとして、何もかもが納得いった。
それと同時に、己の体は言う事を聞かずにふらりと一歩を踏み出した。
「けんし…」
縋ろうとした、りのの手を払って…。
「巴…!」
「…ッ!」
驚愕に目を見開く拙者を不思議そうにこちらを見る彼女は、昔と同じ無表情で…、後ろで顔を覆い崩れたりのにハッとして、我に返った。
巴が、居る筈ない。彼女はもう…。
「すまぬ…、りのが世話になった」
何とか冷静さを保って頭を下げると、彼女はいいえと首を振った。
「早く休ませてあげて下さい」
上品だが、全く違う声にやはり彼女では無いと現実を見た。
「お礼はまた後程…、それじゃ、失礼するでござる」
「あ…」
りのの方に振り返ろうとした時に上がった声にそのまま彼女を見れば視線は拙者を通り越してりのの方に向いていた。
慌てて振り返ってりのを見れば、一人で立ち上がり部屋を出ようとしている所だった。
「りの!拙者に掴まって…」