偶然は必然に奇跡を起こす(仮完)

□夢の道標
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買い物から帰ると静かな屋敷に薫殿と弥彦は出稽古だった事を思い出す。
しかしりの殿の気配すらなくて何かあったのではと、慌てて中に入ると縁側で気持ち良さそうに眠っていた。
なんと無防備な…。周りを見ても特に誰も来た様子の無い事にホッと胸を撫で下ろした。

もう一度りの殿を見ればスヤスヤと眠っていて起きる気配は無い。
縁側に腰を降ろしてその寝顔を見ていると、不意に唇に視線が止まる。あの日、思わず口付けてしまったが目覚めたりの殿は特に何も言う事も無く、もしかしたら気を失ってしまって気付いていないのではと、狡くもその後何も言えないでいた。

薄っすらと開いた桜色のそれをどれ程見つめていたのか…、そっと柔らかな髪に触れて顔に掛かる髪を梳きながら気付けばまた、口付けていた。

柔らかく温かなそれに名残り惜しく思いながら離れれば、我に返って顔が熱くなる。

「(拙者は、また…!)」

その時、パッと開いたりの殿の瞼にドキッと心臓が跳ねる。赤くなる顔を隠す様に口元に手を押し付けたが、こちらを向いたりの殿は何故か不思議そうな顔をした。

「…その、これは…」

なんとも言い訳がましい…。そうは思っても女性の寝込みを襲うなど、とんでもない事をしてしまったと頭が真っ白だ。

「緋村さん…」

「だから、えっと…」

しどろもどろで視線も彷徨ってしまい怪しい事この上ない。
観念して正直に謝ろうと項垂れると、りの殿は起き上がって拙者の頬に手を当てて顔を上げさせると心配そうに覗き込んできた。

「顔が真っ赤…、熱、あるんじゃないですか?風邪かな…」

………心底申し訳ない…。拙者の不埒な行いの末の顔色をこんなにも心配してくれるとは。というより天然なのか、りの殿は…。これから先が心配で堪らない。変な輩にちょっかいを出されないか。


「いや、大丈夫でござる…。それより前にりの殿が言っていた夢の話を聞きたいのだが…」

何とか他の話題を、と確かあの刃衛の時に言っていたのを思い出して尋ねてみた。
するとりの殿は時計を見て先にお昼にしましょう、と立ち上がった。

ここ数日、と言うよりあの、りの殿が初めて朝餉を作ってくれた後からこちら食事は彼女が作ってくれている。
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