短編〜中編
□愛のカタチ
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明治十年、東京。
鳥羽伏見の戦いの後、志士を抜けて流浪人となり全国津々浦々を回り、その途中に寄ったここ、東京から運命は動き出した。
「あれ?貴方…」
東京府に着いた二日後、千駄ヶ谷を歩いていると後ろから掛けられた自分を知った風な声に思わず足を止めて振り返る。
「おろ?拙者でござるか…」
「………」
「!!お主…」
声を掛けたと思われる人を見れば、何と唐突な事か。
幕末に一度だけ会った女、沖田 りのだった。
「……誰だっけ?」
ずっこけた。
声を掛けておいて誰って…
「…お主、沖田 りのでござろう?拙者は緋村剣心」
「そうだけど…。緋村剣心?やっぱり知らないや、ごめんなさい。人違いだったみたい」
あはは、と笑って頭を掻く りのを見れば男物の袴を着ていて、当時の沖田総司を思わせる雰囲気だった。
天女っぷりは相変わらずで、袴と刀の所為か知らない者が見ればまぁ、美男子に見えない事も無い。
女と知っている者からすれば違和感が拭えないが…
「抜刀斎、で思い出すでござるか?」
「!!あぁ!分かる分かる!そっか、剣心て言うのか。いや、懐かしいなぁ」
人通りがある為に自然と抜刀斎の事は小声になってしまったが、聞き取った りのはポン、と手を叩いて名前と顔が一致しなかった事に納得した。
「どうりで見知った筈なのに名前は知らないと思ったよ」
「して、 りの殿は何故ここに?東京に居を構えているでござるか?」
「うん、もう十年になるよ。…十年…も経ったのか…」
「長い様で短かったでござるな」
「そうだね、それより緋村は?東京に住んでるのか?」
「いや、拙者は今は流浪人。東京は偶々立ち寄っただけ」
「流浪人かぁ、いつまで東京に?」
「特には決めてないでござるよ」
「ならここにいる間は家に来なよ。宿をとるにしても金が掛かるし橋下や廃寺での野宿よりいいでしょう?」
「え!?いや、気持ちだけで…流石に女子の家に上がる訳には…」
「ふはっ!何気にしてんのさ。女は十年前に捨てた。だから気にしなくていいよ、んじゃ早速行こう!」
「え、ちょ、待つでござる!拙者了承した覚えは…!おろ〜」