短編〜中編
□擦れ違い
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別に、恋人な訳じゃないし好きとか言った事も言われた事も無い。
完全に私の片想いだって分かってる…。
それでも好きな人の行動とか、言葉に一喜一憂して目が合えば恥かしくて反らす癖に傍に居られるだけで舞い上がるほど嬉しい。
いつも目で追って…。
胸が苦しくて痛くて涙が出そうになるのを、笑うかその場を離れる事で誤魔化してきた。
好きな人は、きっと私じゃない人を見てる。
片想い特有の被害妄想かもしれないけど、どうしようもない事があるって知ってるから…。
「諦めた方がいいよね…」
庭先で何か楽しそうに話している薫と剣心を眺めてそんな事を思う。
「何を諦めるんでござるか、 りの殿」
ニュッと背後から掛けられた声に驚き振り返ると剣心がいて思わず庭先と剣心を二度見してしまった。
「剣心どこー?」
「縁側でござるよ、薫殿」
「ちょっといい?」
「今行くでござる!…良く分からぬが簡単に諦めては駄目でござるよ」
ニコリと笑って薫に呼ばれた剣心は行ってしまった。
「………簡単に諦められないから苦しいのに…」
酷い人…。自嘲気味の笑いが漏れて、結局溜息に変わった。
「やっぱり諦めよう。その前に、気持ち位伝えてもいいよね…?」
好きでしたって言う位…、伝えさせて欲しい。
だって剣心は、薫が一番なんだと思うから。諦める代わりに、私の気持ちも知って欲しかった。
だから、その日から剣心と二人きりになる時を探し始めた。
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