CROSS
□for SKYPIEA
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ショウジョウは、ノックアップストリームに遭遇するのは恐らく11時頃だろうと言っていたので、それまで約4時間程の自由な時間が生まれる。
それぞれに好きなことを始める中で、俺は特にやることも見当たらなかったため、船首甲板でのんびりと空を見上げていた。
こんなにも穏やかな時間は、この10年なかったことだ。
赤髪の世話になっていた頃や、フーシャ村に居た頃にはこんなような穏やかな時間を感じることはあった。
だけど、そんな穏やかな時間もほんの僅かな間だけで、現の合間に見た一時の夢か幻想でしかなかったんだと、あれからずっと思っていた。
だけど、今見ているこの夢だけは覚めないで欲しいと、願わずには居られない。
「クロス?どうかしたのか?」
「ん?いや………良い船と仲間だな」
顔を覗き込んできたルフィに、誤魔化すように笑みを浮かべて言葉を紡げば、嬉しそうに満面の笑みをルフィは見せた。
口ではいろいろ言っているが、この船のクルーは船長であるルフィを信頼しているようだし、ルフィ自身も仲間を信頼している。
この船の雰囲気は、赤髪の船に何処か似ていると思う。
「なぁクロス、シャンクスは元気か?」
「さぁな。俺はあれから半年ぐらいで船を降りて、それから一度も逢ってねぇよ。まぁ、どうせ深酒が過ぎて気分悪くして、ベックマンに怒られながらやっんてだろ」
「ししっ、そぉだな!!」
赤髪を心配するルフィに、苦笑いを混ぜてそう答えてやればすぐさま笑顔を浮かべ、身軽に船首に飛び乗る。
カナヅチのくせに、落ちても知らねえぞと冗談半分にからかってやっても、落ちねえから大丈夫だと笑顔で答える。
こいつは昔っからそうだ。
泳げないくせに、ああいった危なっかしいところばっかり行って、その度にエースに怒られて赤髪にからかわれてたな。
「…………ホント、何も変わってねぇな」
「何か言ったか〜?」
「相変わらずバカだな、って言ったんだよ」
俺の小さな呟きを聞き取れなかったらしく、ひょいと振り返ったルフィにそう言って、取り出した煙草に火をつける。
肺の奥深くまで紫煙を吸い、それをゆっくりと青空へと吐き出していく。
穏やかな時間が、これから先もずっと続けば良いんだが、と思わずには居られない。
サングラス越しの青空は、何処までも広がっている。
「あぁそういや、おまえはエースに逢ったのか?」
「おぅ、こないだアラバスタで逢ったぞ!!」
思い出したように聞くと、船首の上で器用に俺に向き直ったルフィが笑顔で答える。
風の噂で、エースが悪魔の実の能力者となり白ひげ海賊団の2番隊隊長になった、と聞いたのはほんの数年前だったか。
最初は驚いた。
ルフィと違い、昔のエースはまだ悪魔の実を口にしていなかったし、あいつも弟と同じ夢を持っていたから。
最初に逢った時は、まだ幼い弟を護るために必死になって背伸びしてた、ただのガキでしかなかったエース。
それでも、俺とは違って真っ直ぐな兄弟の姿が不思議と羨ましく思えて、自然とフーシャ村で2人と居る時間が増えていたんだよな。
「エースもクロスに逢いたがってたぞ」
「いずれ逢えるさ、海賊の高みとやらでな」
元気でやっているなら、それだけで良い。
もう子供じゃないんだから。
吐き出す紫煙の向こうに、幼い兄弟の笑顔が浮かんだ。