CROSS

□meet again
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ある夜半過ぎ、酒場を訪れた灰銀色の髪の青年は店で騒ぐ連中をサングラス越しに睨み、空いていたカウンターの端の席に腰かける。
馬鹿騒ぎの中心を見て、今この町で一番でかい顔をしている海賊の一団であることを、店主に酒を頼んだ青年は知る。
頭は確か、ハイエナのベラミーなどと呼ばれていたな、と青年は心中で思う。
くだらねぇ、と関わるつもりもない連中のことなど意識の外に追い出して、青年はグラスを静かに傾ける。
そんな中、店の扉を壊しそうな勢いで一人の男が飛び込んできて、何やら必死の形相で騒ぎ始めた。
どうやら今日の昼間、この酒場でベラミーたちはある海賊に喧嘩を吹っ掛け笑い者にしたらしく、その海賊が1億の賞金首だと言うのだ。
真新しい手配書を掲げ、酒場に飛び込んできた男は唾を撒き散らしてそのことを叫び、店内が静まり返る。
その静寂の後、1億の賞金首を笑ってしまった覚えのある連中は恐怖に叫び出したが、事の張本人であるベラミーは大声で笑い始める。
どうやらベラミーは、新しい手配書は本人が作った偽物だからビビる必要はないと思っているらしいのだが、そんなベラミーを青年は人知れず馬鹿にしたような笑みを浮かべた。
連中が大騒ぎしているのは、初頭手配で破格の3千万もの賞金首となった、通称『麦わらのルフィ』と呼ばれる海賊。
何をやらかしたのか、いつの間にか1億もの高額賞金首となっていた事実に、青年は喉の奥で笑う。

「1億、ね………もしかして、あの噂は本当なのか?」

静かに呟き、グラスに唇をつけた時に何やら外から怒鳴り声が響き渡り、その声に酒場は一気に静まり返る。

「ベラミィ〜〜〜!!どこだァアア〜〜〜!!!!」

一人立ち上がり、店の外へと悠然と歩き出したベラミーの背中を青年が横目で見送り、僅かに唇を笑みの形に吊り上げる。







「………金、ここに置くぞ」

言い置いて、立ち上がった青年はベラミーを追いかけるように店の外に向かい、扉の脇の壁に背を預けて佇む。
彼の後に続いた店内の輩は、ベラミーによるルフィの公開処刑ショーを信じているようだが、多少なりともルフィを恐れているらしい。
少し視線を上げると、屋根の上で戦い始めたルフィとベラミーの姿が見え、見ている限りではルフィが押されているようにも見える。
だが、青年は一人口元に笑みを浮かべたままルフィを見上げ、呑気にも煙草を吸い始める。

「あれしきの奴に敗けたら、約束は破棄させてもらうかな」

人知れず呟いた瞬間、ルフィが落ちてきた。
何ともないように立ち上がったルフィの周囲を、ベラミーが目にも止まらぬ早さで飛び回り始める。
どうやらベラミーは、バネバネの実と言う悪魔の実を食べた能力者らしいが、ルフィだって同じく悪魔の実の能力者だ。
青年の目には、己の能力に過信したベラミーなどルフィには到底敵わないと見えていて、ベラミーの仲間を筆頭に周囲の輩がベラミーの勝利を確信している様子が、あまりにも滑稽に映って見えた。

「ちっ。相手にする価値もねぇ奴だ、とっとと沈めちまえ」

青年の呟きは誰にも聞こえやしなかったが、タイミング良くルフィがベラミーをたった一撃で沈めた。
ざわつく連中などには目もくれずに、ルフィは青年の横を素通りして酒場に足を踏み入れ、何かを探している。
少しして、目的の物を見つけたらしいルフィは笑顔で荷物を背負い、足取りも軽く酒場を出てきた。
そのまま町を出て行こうとするルフィを、ベラミーの仲間の一人サーキースと呼ばれる男が呼び止め戦おうとするが、振り返ったルフィに怯えて尻餅をついた。
何処に行く、とサーキースに聞かれたルフィは、一切の躊躇いもなく夜空を指差して空と答えた。
確かルフィたちは、空島への情報を求めてこのモックタウンに来たらしいので、空島を指して言ったのだろう。
そして、用は済んだとでも言うように立ち去ろうとするルフィを、今度はサーキースとは別の声が呼び止めた。

「待て、麦わら」










「何だよ、しつけぇな。おまえもそいつの仲間か?」

むすっ、とした表情で振り返ったルフィの視線は、先程ルフィ自身が沈めたベラミーへと向けられている。
ルフィに声をかけたのは、乱雑に伸びた灰銀色の髪を夜風に揺らすサングラスの青年で、同じようにベラミーへ視線を映す。
そして、鼻で笑う。

「ハッ、俺がこんな奴の仲間だと?笑えねぇ冗談抜かすんじゃねえよ。こんな奴の仲間になんざ、土下座して大金積まれて頼まれたって御免だな」

「てっ、てめぇっ!!ベラミーは懸賞金額5千5百万の大型ルーキーだぞ!?」

サーキースの叫びに、青年は嘲るような笑みを口元に浮かべて振り返ると、サングラスを外して憐れむような眼差しと口調で言葉を紡ぐ。





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