CROSS

□Prolog
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『いつかおまえが海賊として海に出て、俺を見つけ出すことが出来たら仲間になってやるよ。俺は、偉大なる航路の何処かでおまえを待つ』






海の過酷さを知り、強くなって海賊王を目指すと決意を叫んだあの日、彼はそう言って口元に笑みを浮かべて去った。
頭に被せられた麦わら帽子と彼との約束を宝に、10年後、あの日彼らが旅立った村の港から海へ出た。
そして、剣士に航海士に狙撃手と料理人を仲間に迎え、たった5人の少数海賊団の船長は、ついに偉大なる航路に入った。







双子岬に佇んで、遠く広がる水平線の遥か彼方に居るはずの彼は、あの日の約束を覚えているだろうか、と考える。

「そろそろ出航するぞ」

その言葉に、少し古びた麦わら帽子を被った彼は笑顔で振り返り、麦わら帽子の海賊旗を掲げた船に飛び乗る。
絶対に叶えると、幼きあの日に誓った夢への冒険が今この時から始まるんだと胸を高鳴らせながら、遥か彼方まで続く偉大なる海を見つめる。
その瞳は何処までも真っ直ぐに純粋で。












ジャヤと呼ばれる島にある、嘲りの町『モックタウン』の賑やかすぎる酒場で、一人の青年が静かにグラスを傾けている。
テーブルには、麦わら帽子を被り子供のような笑顔を浮かべた少年の写真が載った、一枚の手配書が置かれている。

「初頭手配で3千万か………くくっ、ちったぁ強くなったようだな」

賑やかすぎる酒場の喧騒に、青年の呟きは誰の鼓膜も震わせることはなく、青年はただ楽しげに喉の奥で笑う。
氷が溶けて味が薄くなった酒を飲み干し、彼は煙草をくわえ火をつけるとテーブルに酒の代金を置き、手配書すら置き去りに店を出る。

「にしても、あいつが俺を覚えてるかどうか怪しいが、まぁそれも良いか」

紫煙を夜空に吐き出し、馬鹿騒ぎを続ける町の連中の間を縫うように歩きながら、青年はくつりと喉を鳴らして笑う。
夜風に揺れる乱雑に伸びた灰銀色の髪と、肩に羽織っている少し薄汚れたジャケット。
夜だと言うのにかけたままのサングラスの奥で、その相眸が楽しげに細められる。
深まる夜の闇に、溶けるように歩き去る青年の背後で、町は眠ることはなかった。









数日後、麦わら帽子の海賊旗を掲げた一隻の船がモックタウンの港に停泊した。







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