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□曰く彼女は惑星の花嫁
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「無涯殿…良くお似合いです…!」

月島の感嘆の声に、無涯は少し照れたように俯いた。

美しい銀髪を結い、白無垢に身を包んだ美しい花嫁。

白い面(おもて)を瞳と同じ、鮮やかな紅が色付け、綿帽子の裏地の紅に銀髪が映え、白と赤の絶妙なコントラストが見事に花嫁を彩っている。
更に、白打掛に描かれた紅い梅と金の枝も、その穢れない純真さを際立たせていた。

「流石、火鉢殿が選ばれた衣装なだけありますね!お綺麗です…!」

何故こうなったのか。

(そもそもの発端はお前だ、芋坊主…)

きらきらとした瞳で自分を見つめる月島にため息を吐き、無涯はつい先程の騒動を思い出した。




「折角女性になられたのですから、無涯殿の白無垢姿を拝見したいです!」

唐突にそう言い出した月島に、無涯はじろりと鋭い視線を向けた。

「っいや、違うんです無涯殿!決して下心とか、嫁にしたいなどとは…!」

必死に否定する月島(墓穴)に、無涯が呆れたように口を開こうとすると、火鉢が素晴らしい笑顔でこうまくし立てた。

「月島にしては良いこと思い付くじゃない!任せて、私、呉服屋に知り合いがいるの!確かそこに白無垢が置いてあった筈よ。無涯さんっ、私が無涯さんに似合うのを選んできますからねっ!」

瞳を輝かせてそう宣言した火鉢は、無涯が止める暇もなく走り去ってしまった。



その結果が、これである。

「無涯殿、自分と生涯を共に歩みましょう!絶対に幸せにしてみせます!」

月島が耐え切れずにそう言い放った瞬間。

「待てよ、兄ちゃん」
「抜け駆けはずるいです!」
「一人だけ求婚するだなんて、認めませんよ!」

派手な音をたてて襖が吹き飛ばされ、恋川、一乃谷、松ノ原といった見廻り組の男性陣(何故か全員、紋付羽織袴を着用済み)が現れた。

「無涯…いや、俺の嫁!不自由はさせねぇ、結婚してくれ!」

「むっ、無涯さんは僕のものだよ!」

「無涯君は僕に嫁いでくれるよね?」

一気に三人に詰め寄られた無涯は、眉一つ動かさずに一言だけ発した。

「断る」

ずうぅぅうんと黒い影を背負って体育座りをする三人を余所に、これはチャンスと仁兵衛が(いつのまにか紋付羽織袴をry)立ち上がった。

「むむむ無涯殿!で、ではっ、是非自分と…!」

「待ちなさいよ!あんたに無涯さんは任せられないわ…!無涯さんの衣装を選んだのは私なんだから、無涯さんをお嫁にもらうのも私よ!」

胸をはる火鉢の男らしさに、無涯は不覚にも少しときめいた。

「いくら火鉢殿でも譲れません!自分と――」

カラン、下駄の音が鳴る。

「…見つけた」

不意に、声が聞こえた。

先程壊された襖からゆっくりと入ってきた男―――深く傘を被っており、その顔は伺えない。

男は無涯を見据え、僅かに見える口元を歪ませた。

「…無涯は貰ってくぜ!」

男のその声と同時に、無涯は自分の身体が浮き上がるのを感じた。

「あぁっ!しまった、無涯殿ぉー!」

「無涯さん!?あぁもうあんたのせいよバカ月島っっ!」

無涯を横抱き(俗にいうお姫様だっこ)に抱え、壁をぶち破って逃走した輩。その顔を見上げ、無涯は瞠目した。

「…む、蟲狩…」

「よぉ無涯――俺の為に着替えてくれてたのか…普段のお前もいいが、この姿もお前は可愛さが増すな…」

「っ、な…」

「昔みたいに『お兄ちゃん』って呼んでいいんだぜ?あぁ、でももう妻になるんだから『貴方』の方がいいか」

にやりと笑う蟲狩を無涯はじとりと見つめ、深くため息を吐いた。

「何を寝呆けたことを言っている…そろそろ降ろせ」

「式場はどこがいい?式はいつ頃あげるんだ?やっぱり早い方がいいよなぁ。」

「勝手に話を進めるな…!というかいい加減降ろせ!」

頬を染めて上目遣いに自分を睨む無涯に、蟲狩は愛らしいものを見るような視線を放さない。

「可愛いなぁ無涯…お前はどこにも嫁にやらん!」

「っおい…嫁って、」

「よし、早速他の蟲狩のメンバーにも報告しねぇとな。立会人は…まぁ、追々決めるか」

「聞いているのか、さっさと降ろせ…!」

その後、やっと立ち直った見廻り組と蟲狩、仁兵衛によって、無涯を巡る大乱闘が起こったとか。


曰く彼女は惑星の花嫁
(私、蚊帳の外じゃない…あっ、無涯さん!良かったら、二人でお茶しませんか?ゆっくりできるいいお店を見つけたんです!)
(あぁ…そうだな、少し休みたい…)
(漁夫の利ってやつね…!ラッキー!)

END.

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