present
□病ver
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初めて見た姿は、手負いの獣のようだった。
蟲の血と体液に塗れて尚輝く銀の髪。
その奥で鋭く光る紅の瞳。
思わず息を呑んだ。
なんて、美しい。
侵入者――無涯くんは、蟲奉行様と話をして、心に変化があったらしい。
彼は元蟲狩ながらも、特例で奉行所に入ることとなった。
彼が蟲狩だということは、一般の武士には伏せられている。
望んだわけではないとはいえ仲間を失った野良猫を、懐柔してゆくのは愉しかった。
少しずつ、開かれてゆく心。
変わったのは、その絶対的な強さの中に息づく孤独と儚さを垣間見た時だった。
震える身体はいつもとは打って変わって頼りなく、宝石のような紅は透明な膜を張って今にも零れ落ちそうに潤んでいた。
『っ、×××…!』
呟かれたのは、現在の蟲狩のリーダーと言われている彼の兄の名だった。
それを聞いた瞬間、ふっと胸に苛立ちが湧いた気がした。
「戻りたいかい?無涯くん」
意地の悪い質問だ。分かって聞いた自分に、大人げないな、と自嘲した。
「…いや…ここで、いい。」
唇を噛みしめてそう呟いた無涯くんに、嗚呼、と嘆息した。
君は、こんなにも、僕の心を揺さ振る。
抱き締めた体温が、酷く愛しく思えた。
伸ばした指に曖昧な優しさだけをしたためて君が喰らいつくのを待ってる
(大人のずるさを許しておくれ)
END.