present
□傷を隠すように抱きしめて
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仲間を信用しないと決めた。
一人、蟲奉行を殺しに行って、其処で真実を知ったあの夜から、俺は仲間という存在を放棄した。
いつか失うのなら。いつか傷付けるなら。
(もう二度と、心を開くまいと。)
なのに―――
この場所の暖かさは、容易くその覚悟を覆してしまう。
『君が無涯君かい?僕は松ノ原小鳥。君の仲間になるんだ、覚えておいてよ』
にこりと微笑んだ眼鏡の男に、俺が蟲狩から寝返ったと知っている筈なのに優しい笑顔を向ける男に、心が動いた。
―――苦しい。痛い。悲しい。
ぽす、不意に頭に温もりが乗った。
反射的に顔を上げると、悲しげに笑うその男と目が合った。
「…誰かに頼って、いいんだよ」
囁かれた言葉は、凍えていた胸を優しく包んだ。
「無涯くん?どうしたんだい?」
「…いや。」
(昔のことを、思い出しただけだ)
微笑む彼は、あの頃と何も変わらない。
「…無涯君?」
「何でも、ない。…今回の仕事は?」
「あぁ、そうそう。えぇと―――」
自分の居場所だとは、やはり思えない。
けれど、安らげる場所ではある。
叶うなら。あと少しだけ、この温もりに浸っていたいと。そう願った。
傷を隠すように抱きしめて
(お前となら、歩めると思った)
END.