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□そうして世界は呼吸をとめた
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*モブ視点


ああこんにちは、お園ちゃん。相変わらず忙しそうですね。
え?あぁ、確かに僕は、蟲奉行所にお勤めしている武士の一人ですよ。

…奉行所の話を聞かせてほしい?
まぁ、機密に関わることじゃなかったら答えてあげられますけど…また瓦版ですか?お園ちゃんの記事は好評らしいですね。僕も時々読ませてもらっていますよ。

それで、奉行所のことでしたか、えぇと…何を聞きたいんですか?

…はぁ、そりゃまあ蟲は怖いですが、私達には無涯さんがついてますから。
はい、その無涯さんですよ、かの有名な。
そりゃもう、滅茶苦茶強いです。蟲なんか一刀両断ですよ。僕達みんなの憧れなんです、無涯さんは。

あんなに綺麗な人、見たことがない。
月島さんが綺羅星と例えるのも納得いくほど美しいんです。

はい、初めは少し近寄りがたい人だと思っていたんですけど…僕が初めてお勤めに出た日でした。
輝いて、いたんです。誇張ではなく、本当に。
夜の闇に無涯さんの銀髪が煌めき舞って、とても美しかった。
刃が踊るように軌道を描いて、次々と蟲共を斬り裂いていって――僕は、僕達は、その瞬間に心を奪われました。

普段は月島さんを始め、火鉢さんや恋川さん、一乃谷さん、松ノ原さんが代わる代わる周りを固めていて話し掛けることさえ出来ないんですが、たまに無涯さんはお一人でひっそりと散歩をなさるのです。
散歩している間も、動物のタックルを受けたり市中見廻り組以外の奉行所に誘拐されかけたり、何故か突然現れた蟲狩に拉致されかけたり、心配は絶えないんですけどね。
けれど、それを眺めるのが蟲奉行職員の癒しなんです。
たまに…極々たまに、無涯さんが話し掛けてくださることもあるんですよ!
まぁ、一言二言なんですが…。
あの紅玉のような瞳に見つめられると、まるで魔法に掛かったみたいに、目を離せなくなってしまうんです。

無涯さんは、とても綺麗で、傷付けてはいけない存在なんです。そんなこと、許されない。
…だから、蟲奉行所にはある掟があるんです。
『無涯さんに手は出さない。抜け駆けした者は報いを覚悟すること。』。
破った人?…あぁ、居ましたね…薬を盛って無涯さんを襲った奴が。
まぁその後奉行所全員で無涯さんを助けだして、制裁を加えましたが…もう少し苦しめて殺すんでしたね。今になっても悔やまれます。
まぁ、報いを恐れない月島さん達は手強いですが…こればかりは実力主義なので仕方ありません。強くなればなる程、無涯さんに近付けるんですから。

え、もう良いんですか?
無涯さんの話ならまだ…そうですか、残念です。
はい、では。またいつでも聞きにきてくださいね。

そうして世界は呼吸をとめた

END.
 

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