銀魂
□恋文
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新八はいつもの時間に万事屋に出勤した。冬は寒くて目覚めにくかったが、新八はいつも通り時間を守っていた。
夜明けとともに街は目覚め、活気に満ちあふれているのに、万事屋は静まりかえっていた。銀時と神楽はまだ眠りの中にいるからだ。
「いつも通りだな」
まずは郵便物を確認する。
受け口がない昔の郵便受けのため、玄関にパラパラとこぼれ落ちていた。
ひとつひとつ拾い上げる。
銀時さまへ
攘夷へのお誘い♪
桂より
「相変わらずしつこいな…」
銀時へ
5ヶ月分の家賃払えや!
お登勢より
「すいまっっっせん!!!」
銀さんへ
橋の下に引っ越しました。
マダオより
「橋の下って、もう完全にアレですよね?…」
「いつもと同じだな…ん?」
新八は玄関のすみに落ちていた、ひとつの白い封筒を拾い上げた
。
雪のように真っ白な封筒で、
全体に銀色のラメが散りばめられていた。
それは朝日を受けて反射する雪の輝きのようにきらめいていた。
封はしっかりとされており、飾りにやはり白いウサギのシールがはってあった。
神楽様へ
差出人の名前はなかった。
「神楽ちゃん宛なんてめずらしいな」
新八はいつもの通り寝ている2人をたたき起こして、朝食の席でそれを渡した。
まだ寝ぐせでボサボサの神楽は、純白の手紙を持って目を輝かせた。
「マジでか!手紙なんて初めてアル!」
「へえぇ。神楽にねぇ。ハゲ親父からじゃねーの?」
同じくボサボサ頭で、寝巻き姿のままの銀時が答えた。
「たぶんそよちゃんヨ!」
勢いよく封筒の端を破ると、手紙を読み込んだ。
「………………」
神楽はだまったまま、一言も言葉を発しなかった。
もうとっくに読み終わっているはず。
「神楽ちゃん?誰からだったの?」
神楽はやっと顔を上げた。その顔はどこかおぼろげで、夢を見ているようだ。そして目がほんのわずかだが、うるませているのを神楽をよく知る銀時と新八は見逃さなかった。
神楽はそっと手紙をたたんだ。
「誰かわからないアル…」
「じゃあ何て書いてあったの?」
「た、たいしたことじゃないアル!」
そういうと、手紙をポケットにしまい込み、たまごかけご飯を一気にたいらげた。
「新八!おかわりほしいネ!」
何かがへんだ。男性2人は第6感ともいうべきもので、神楽から何かを感じとった。
2人はすぐさま心を合わせたように動いた。
新八がご飯で神楽をつっている間に、銀時が手紙を奪ったのだ。
「あ〜!銀ちゃんなにするネ!?」
「だってね〜?14歳の女の子の保護者としてはさ、ね、新八?」
「そうですよ銀さん。保護者としてはこの物騒な世の中、宛名もないあやしい手紙に目を通さないわけにはいかないですから。」
「か、返してヨ〜!」
神楽はあわてて取り返そうとしたが、自分より背の高い男性2人にピンクヘアの頭をおさえられ、歯が立たなかった。
2人は読み上げた。
「恋文…だな」
銀時の瞳が怪訝そうにつりあがった。
誰がかわいい娘を想っているのか…という父親の心境だろうか?
「一体誰でしょうね…」
新八も眉をひそめた。その姿は妹を心配する兄そのものだった。
年頃の少女が家族にそのような手紙を見られるのはどんなに恥ずかしいことか、2人はわかっていなかった。
次の瞬間、2人は同時にアゴに強い衝撃を感じ、障子を突きぬけ、畳の部屋に飛んで行った。
「デリカシーのないやつらネ!ちょっと遊んでくるアル!」
何となくいたたまれなくなって、神楽は家を飛びたした。