宝物部屋(戴き物小説)

□慕情
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「ぅわ!ちょっ…やめて下さい!降ろして下さい!」
と慌てて抗議したが、そんな事にはお構いなく岬を抱き抱えたまま扉で仕切られた自らの寝所に歩みを進め扉を閉めた。
「僕は平気です!松山の話はきっと僕が感じる凶兆に関係があるはず…。休んでいる場合じゃないんです。それに、王が何と言おうとこれからは僕も軍事会議に参加させてもらうつもりです…」
ベットに降ろされた岬が立ち上がろうとするところを若林は無言で押し倒し、右手で岬の両手の自由を奪っった。その顔は少し怒っているかの様にもみえる。
そして、急に景色が反転し有り得ない風景が目の前に広がり、驚きのあまり何も言えなくなった岬に
「言ったはずだ…。二人だけの空間だ。俺に敬語は使うな…」
密着している体が熱い。岬は、高鳴る鼓動を悟られまいと顔をそらした。
二人には身分の差がある。しかし若林は二人きりになった時、それを嫌がるのだ。比較的、ルールを重んじる岬は国王と対等な口を利くなんて絶対に無理だと最初は随分嫌がったが、国王として皆を統率する為、孤独に身を置く若林を知るにつれ、彼の癒しの場になるのならば…と二人きりの時は友人として接している。最近では、身分を感じる時が寂しいと感じてしまう様にまでなっていた。それは若林も同様で、咄嗟に発したであろう岬の言葉に酷く悲しい気持ちになっていた。岬は兆しを肌で感じる占者であるが故、人の気持ちに敏感だ。今の若林の寂しさも、自分に対しての若林が持つ特別な感情も全て感じとってはいた。岬自身も、どんどん惹かれる気持ちに戸惑いつつもどこか心地よく感じていた。
しかし今、こんなにも密着されるのは想定外だった。そんな岬に若林は
「俺にはお前の感じるモノがどんなモノかはわからん。しかしそのせいでお前の心身を蝕んでいるのはわかる。少し眠るんだ。このところ眠ってないのだろう」と、ベッドサイドに置かれたコップに手を伸ばした。液体を含んだ唇は静かに岬の唇に重ねられた。抵抗を続ける岬だが、若林が唇を離した時には力尽きて眠ってしまっていた。
若林は静かに眠るその姿を愛しそうに見つめ、柔らかな髪を撫でながら切なげに呟いた。
「一人で抱えこむなよ…。少しは俺に……」
若林は言葉を飲み込み、もう一度唇を重ねると立ち上がり、部屋を後にした。
部屋を出たであろう扉の音を確認した岬は、近くの洗面に無色の液体を吐き出した。そしてベットにうつ伏せに倒れ込み、誰にも聞こえない小さな声で
「一人で抱えこんでるのは君の方じゃないか…」
と、悔しくて切なくてやるせなくて…どうしようもない気持ちを、彼の香り漂う白いシーツを掴む事で堪えるのだった。



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