□流砂
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気付かれないように
僕は細心の注意を払う
笑顔も視線も

まるで
流砂に飲み込まれるように
気付いた時には
すでに手遅れだった
もがけばもがくほど
深みにはまっていくのなら
何事もないような顔をして
ここから動かずにいる

この流砂から逃れる
唯一の方法は
君が気付かずに
離れてくれること

会話も仕草も声音も
鼓動も体温も眼差しも
何もかもを制御して
友人の仮面を被って

ストレートで
一方的な求愛にも
気付かないフリを続けて
細心の注意を払ったまま
君の隣で笑う

無関心という拒絶に
君が離れていくのが
早いか

僕の仮面が壊れるのが
早いか

「岬」
「なに?」

「逃がさないぜ、俺は」
流砂の中心で君は笑う

「なんのこと?」
僕も笑い返した
絶対に動かない
君に気付かせたりしない

「もしかして」
足元の砂がさらりと動く
「俺が、気付いてないとでも思ってる?」

久しぶりの逢瀬
目の前には空のボトル
もちろん二人とも
酔ってはいない

「…………」
僕は動けない
今取り乱したりしたら
この流砂に捕まってしまう

「…………」
「……若林くん?」
僕に向かって伸ばされる手

動けないのは
僕だけじゃない
君も同じはずなのに
それなのに
どうして君は

「…本心を曝けだせるようにしてやろうか?」

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