図書館2(小説)

□雪月花
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岬から何の音沙汰もないまま、更に数日がたった。
そして、再び唐突に、岬は俺の前に現れる。
「…岬?!」
トレーニング後に帰宅した俺は、玄関先で丸くなって座りこんだまま動かない、見覚えのある人影を見つけて、自分の目を疑う。
「あれ、若林くん。」
駆け寄ると、岬は顔を上げて目を擦った。
「おかえりなさい。」
にっこりと笑う、穏やかな寝起きの顔。
言いたい事は山ほどあるが、とりあえず吐息をつく。
「…ただいま。何してんだ、ここで。」
岬に手を貸して立たせてやる。
鍵を開けてドアを開き、岬の荷物を手に取った。部屋の中に岬を招き入れる。
「若林くんを待ってたら、眠っちゃったみたい。」
「まず俺に連絡しようと思わないのか?」
「…怒ってる?」
「当然。」
どのくらい俺を待っていたのだろう。聞いてもきっと誤魔化すから、聞きはしない。
眠り込んでしまうくらい。
…知っていれば、まっすぐに家に帰ったのに。
「次からは連絡してくれ。頼むから。…飯は?まだだろ?」
「…あ、うん。」
「俺もまだなんだ。食いに行こうか。」
「あ、だったら僕が作るよ。…心配かけたお詫びに。」
片眉を上げて、岬を見た。自覚はあるらしい。
「じゃあ、頼んだ。」
岬の頭に手を置いて、俺は浴室に向かった。



「…くん、若林くん。」
岬の顔はとても綺麗だ。整った顔立ち。童顔に見えるのはつぶらで大きな瞳の印象のせい。
滑らかそうな白い肌は、無条件で触れたくなる。
思わず手を伸ばした。
「…起きた?ご飯できたよ。」
「………」
ぼんやりとした頭で、目の前にある岬の顔は、どうやら現実らしいと考え、伸ばしかけていた手を下ろした。
風呂上がりにソファに座ったまま、うとうとしていたらしい。
「随分疲れてるみたいだね。どうしよう。食べずに寝る?」
「…食べる。」
岬がいる。目の前に。食べてみたいなと、まだ目覚めていない頭で、そう思った。
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